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二人は笑顔で立ち話をしながら、店の出入りの邪魔にならないように、と気遣う体でコンビニ脇の路地に一歩入った。
「……で、どうしたの? 二人で会いたいなんて」
雑踏から少し離れると、桂奈はすぐに本題に入った。
加恋がそっと桂奈に顔を寄せる。加恋からはボディーソープの甘い香りがした。
「昨日の夕方、刑事さんがウロウロしてたの。この前の殺人事件の時に、見かけた人」
この前の殺人事件とは、ひと月前にあったデリヘル嬢殺害死体遺棄事件のことだ。桂奈たち保安係も、捜査に大きく関わった。
「あの時見かけたって……どんな人?」
加恋が北荒間で見かけたと、わざわざ教えてくれるのだから、荒間署の刑事ではないだろう。そうすると、県警本部からやって来た捜査一課の刑事だ。
桂奈の眉間に皺が寄る。最近県内で起きた殺人事件で、北荒間が関係する事件があったか考える。
「小野寺さんと同じ年ぐらいのオジサンで……イケメンっちゃイケメンだけど、ちょっと顔が濃い……てゆうかクドイ人」
唇が厚くて。と加恋が付け加えて、桂奈はピンと来た。
「大輔くんと小野寺さんと、三人でちぇりーはんとに来た男の人?」
「そう! その人!」
加恋が嬉しそうに手を叩く。しかし、桂奈の顔はいっそう険しくなった。
加恋が見かけた男とは、晃司の元相棒の捜査一課刑事――井上だ。桂奈もよく知る男で――既婚者だ。
「加恋ちゃん、念のため訊くけど……その人、どっかのお店で遊んでった、てわけじゃないよね?」
加恋が遊びに来た刑事を、いちいち桂奈たちに教えるわけはない。わかっているが、井上の助平な顔を思い出して、一応確認した。
桂奈の嫌そうな顔に、加恋が声を立てて笑う。
「違うよ! そんなことで桂奈さん呼んだりしないって。なんか……人を探してるって。昨日、うちのボーイの子が無料案内所の当番だったんだけど、女の人の写真を見せられたんだって」
北荒間で人探しとは、強い事件性を感じる。桂奈は井上の班が現在担当している事件を、なんとか思い出そうとしたが、さすがに捜一の事件を全て把握しているわけはないので、早々に諦めた。
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