報告一 ワイルド刑事と童貞刑事

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(署に戻って、調べてくるか……それにしても)  捜査なら、なぜ保安係に一言ないのだろうか。北荒間で捜査したいなら、生安課か保安係の協力がなければ難しいと、先日の事件で知っているはずだ。  いや、刑事としては優秀な井上は、事件前からわかっていたはずだ。それなのになぜ、単独行動を取っているのか――。  桂奈は難しい顔で唸った。  加恋が首を傾げる。 「あれ? あんまり面白い話じゃなかった?」 「え? ううん! すっごく面白いよ! 教えてくれてありがとうね、加恋ちゃん」 「そ? よかったぁ」  桂奈が大げさに感謝すると、加恋はえくぼを見せて可愛く笑った。  可愛い笑顔と、笑うたびに揺れる谷間に、桂奈はもう一つの疑問を思い出す。 「でも加恋ちゃん、どうして私に教えてくれたの? いつもなら……小野寺さんに連絡するでしょ?」  桂奈も加恋と親しいが、晃司ほどではない。正直に訊ねると、加恋は柔らかそうな唇をツンと尖らせた。 「だって小野寺さん、最近冷たいんだもん。加恋が遊びに来てって何度も誘ってるのに、ぜんっぜんお店に来てくれないし! 他のお店に行ってるんじゃないっぽいから、彼女できたの? て訊いたら、できてないってウソつくし!」  言いながら、加恋の頬がプクッと膨らむ。可愛らしい拗ねた仕草に、桂奈は苦笑いするしかなかった。 (確かに……彼女はできてないけど……) 「今……上が色々うるさいから。小野寺さんも、いい加減北荒間で遊ぶのやめろって、怒られてたし。それにあんまり同じお店で遊んでるとさ、やっぱまずいのよ。賄賂とか疑われるの、小野寺さんも気にしてるんじゃないかな?」  桂奈は精一杯、晃司を庇った。しかし加恋は中々納得してくれない。 「えー! 小野寺さん、絶対ちゃんと正規の料金払ってくよ? 店長がオマケしようとしても断るし、あたしが本番オッケーて言っても、それだけは絶対ヤらないし」 「ちょっと加恋ちゃん! 本番は、ダメ! 絶対! だよ」  桂奈が叱ると、加恋の頬がさらに膨れた。 「わかってますぅ。本番なんかバレたら、店長にメッチャ怒られるし」 「お店じゃなくて、法律でも禁止!」  加恋の悪い冗談とわかっているが、念押しする。加恋は、面倒くさそうにため息を吐いた。
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