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「その不動産会社の社長の愛人をしてた女が、北荒間で風俗嬢してるって情報が入ったんだよ。その女は、何人かいる愛人の中でも社長との付き合いが長いから、なんか知ってるかもしれないだろ?」
「そんなことなら……なんでうちに相談してくれなかったんですか? 風俗嬢探すのなんて、うちに言ってくれれば一日で終わるのに」
「それは、さぁ……」
井上が言葉を濁す。隣の穂積が、フンと鼻を鳴らした。
「まだ証拠が足りないから、俺や一課長に情報を上げるまでではなく、ましてや所轄に協力を仰ぐことはできない。……というのが建前で、本音は同じ班の刑事たちに、連続殺人かもしれない、という大きなネタを明かしたくなかったんでしょう?」
穂積は嫌みたっぷり、意地悪ババアのようにニヤッと笑った。
(こわっ)
桂奈は穂積の恐ろしい笑みから目を逸らし、井上に訊く。
「つまり……連続殺人ていう、最近なかった大きなヤマを独占したいってことですか?」
井上はバツが悪そうに、後ろ頭をガシガシと掻いた。
「聞こえは悪いけど……そんなとこ。桂奈ちゃんたちに協力を頼めば、どっかから捜一に漏れ伝わる可能性があるだろ?」
「え~……そういうこと、後でバレると余計面倒なことになりません? 出世したいからって、やり過ぎると逆に上に目をつけられますよ……て。上が一緒なのはまたどうして?」
桂奈は井上の隣の、彼の美しい上司を見つめた。
「それは……」
話の矛先を向けられると、穂積は急に困惑した様子を見せた。さっきまで、悪魔の微笑みで井上を眺めていたのに――。
「井上さんが……一人で怪しい行動を取ってたので気になって……」
常に冷静で冷徹で、公正だけれど高慢な穂積が、ひどく動揺している。
見たことのない穂積に、桂奈は一つ思いついた。
(もしかして……大輔くんに会いたくて?!)
それは、桂奈の強い希望でもあった。
桂奈の大本命は――大輔×穂積、なのである。
だらしなくニヤけてしまいそうな口元を、桂奈は手で覆って必死で隠した。
しかし、どうしても我慢できず、遠くのラブホテル街に目を向ける。
桂奈は知っていた。通常、北荒間のラブホテルは男同士では入れない。だが、生安課と特別な関係にあるホテル「M」は、大輔と晃司が初めて結ばれたホテルで――。
(あそこなら、男同士でイける!)
桂奈の妄想が大爆発した。
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