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「古谷巡査長!」
呆けた桂奈の頭に、不穏な声が響く。
「……はい!」
ほとんど反射で、桂奈は背筋を伸ばした。
(やば……ボケてた……)
恐る恐る美貌の上司を見ると――殺意さえ感じる冷たい目と出会った。
薄茶色の目が――凍りついている。
この目にはなんでも見透かされてしまいそうで、恐怖を覚えた。
「なに、ボーッとしてるんですか? きれいな顔がブス、になってますよ」
ブス――を強調されて、桂奈の顔が引きつった。
(今時、女性警官にブスとか平気で言うかぁ?)
やはりこの美しい男が嫌いだ、と桂奈は強く思った。
「ちょっ、管理官! なんつうこと言うんすか? 桂奈ちゃん美人じゃないっすか、年はいってるけど」
フォローのつもりだろうが、井上も失礼には違いなかった。穂積が、腕を組み直してフンと鼻を鳴らす。
「どうも良からぬことを考えているような気がして……つい」
ギクリとした。穂積は桂奈の秘密を知っているのではないか、と。
桂奈は腐警、という秘密を――。
穂積なら、桂奈の秘蔵のBL小説が刑事もの、ということぐらい把握しているのではないか、と恐ろしくなる。
「良からぬ……なんてことは……そう! どうして管理官のような方が井上さん『なんか』と……井上さん『ごとき』の監視役なんて、穂積管理官ほどの方がわざわざすることじゃないですよね?」
穂積にやり返すのは怖いので、井上に嫌みを返す。井上は、おい、とだけ呟いて苦笑した。
「井上さんも、小野寺先輩と同じくらい強引なところがあるので、心配だったんですよ。俺が捜一にいる間に、もう誰にも問題起こしてほしくないので」
「ちょっと管理官、小野寺と一緒にしないで下さいよ。俺、あいつほど感情まかせに突っ走ったりしませんよ?」
もっとクールです。と、井上がふざけたことを真面目に言うと、穂積の氷の鉄仮面がハラリと落ちた。
「クールって……井上さんがぁ?」
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