報告二 童貞刑事と美貌の上司

12/13

137人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
「私が、探しておきますよ。うちの人たちには内緒で」  桂奈は、色々な感情は一端忘れ、賢くなることにした。  捜査一課の井上に、恩を売って損はない。それに、と穂積を見る。 「管理官も、そろそろ大きな手柄が欲しいんですよね?」  さっきまで可愛く笑っていたのに、穂積は一瞬でいつもの鉄仮面を取りつけた。 「どういう、ことです?」 「井上さんを心配して、北荒間までくっついてきたのも本当でしょうけど……管理官も、井上さんの言う連続殺人の線、なくはないと思ってるんですよね? だから、気になってついてきちゃった」  穂積は答えず、桂奈を冷たく見つめた。 「管理官、捜一に来て四年……五年目ですか? いい加減、もうちょっと上に行きたい頃でしょう? サツチョウに戻るにしても、どこか別の部署に栄転するにも、お土産が必要ですよね? 連続殺人事件の犯人逮捕、なんて最高のお土産なんじゃないですか?」  穂積が、県警刑事部の管理官というポストで満足しているとは、思えなかった。  桂奈は、穂積の冷たい薄茶の目に宿る野心に気づいていた。  穂積が口の端を引き上げ、氷の微笑みを見せる。 「やっぱり、所轄の生安課に置いておくのは勿体ない人ですね、古谷巡査長。あなたが女性でなかったら、今すぐにでも捜一に引っ張るんですけど……」  女は面倒が多いのが残念だ。と、穂積は吐き捨てた。  それはひどい侮辱だったが、桂奈はなにも言い返せなかった。  言い返せる立場ではなかった――。  桂奈は黙って屈辱に耐えた。自業自得だ、と自分に言い聞かせて。 「……じゃあ、桂奈ちゃんに頼んじゃおっかな。俺がチンタラ探してるより、その方が早そうだ」  井上が、なにも気づかぬ素振りで、不自然なほど軽い調子でそう口を挟んだ。  その場の空気がぐっと柔らかくなる。やはり、井上と晃司は似ているところがある。  二人とも大雑把そうに振舞うが、実は繊細で細かい気遣いをする男なのだ。 「桂奈ちゃん、飯行かない? 女の特徴教えるからさ。あと、このお礼の前払い」
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

137人が本棚に入れています
本棚に追加