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「私が、探しておきますよ。うちの人たちには内緒で」
桂奈は、色々な感情は一端忘れ、賢くなることにした。
捜査一課の井上に、恩を売って損はない。それに、と穂積を見る。
「管理官も、そろそろ大きな手柄が欲しいんですよね?」
さっきまで可愛く笑っていたのに、穂積は一瞬でいつもの鉄仮面を取りつけた。
「どういう、ことです?」
「井上さんを心配して、北荒間までくっついてきたのも本当でしょうけど……管理官も、井上さんの言う連続殺人の線、なくはないと思ってるんですよね? だから、気になってついてきちゃった」
穂積は答えず、桂奈を冷たく見つめた。
「管理官、捜一に来て四年……五年目ですか? いい加減、もうちょっと上に行きたい頃でしょう? サツチョウに戻るにしても、どこか別の部署に栄転するにも、お土産が必要ですよね? 連続殺人事件の犯人逮捕、なんて最高のお土産なんじゃないですか?」
穂積が、県警刑事部の管理官というポストで満足しているとは、思えなかった。
桂奈は、穂積の冷たい薄茶の目に宿る野心に気づいていた。
穂積が口の端を引き上げ、氷の微笑みを見せる。
「やっぱり、所轄の生安課に置いておくのは勿体ない人ですね、古谷巡査長。あなたが女性でなかったら、今すぐにでも捜一に引っ張るんですけど……」
女は面倒が多いのが残念だ。と、穂積は吐き捨てた。
それはひどい侮辱だったが、桂奈はなにも言い返せなかった。
言い返せる立場ではなかった――。
桂奈は黙って屈辱に耐えた。自業自得だ、と自分に言い聞かせて。
「……じゃあ、桂奈ちゃんに頼んじゃおっかな。俺がチンタラ探してるより、その方が早そうだ」
井上が、なにも気づかぬ素振りで、不自然なほど軽い調子でそう口を挟んだ。
その場の空気がぐっと柔らかくなる。やはり、井上と晃司は似ているところがある。
二人とも大雑把そうに振舞うが、実は繊細で細かい気遣いをする男なのだ。
「桂奈ちゃん、飯行かない? 女の特徴教えるからさ。あと、このお礼の前払い」
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