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「いいですよ、今教えてくれれば。早く帰らないと、奥さんの生姜焼き、食べはぐっちゃいますよ?」
井上の心遣いに感謝して、桂奈は本心からそう答えた。
「俺は……先に帰ります。井上さん、なにか掴んだらすぐに俺に教えてくださいね」
穂積は、桂奈と井上のやり取りに無関心を装って、その場から去ろうとした。
もしかしたら穂積も、言いすぎた、とほんの少しは反省して、気まずかったのかもしれない。
それは桂奈の希望的観測だったが――。
穂積が二人を残し、先に帰ろうとしていた。桂奈と井上は、今から食事に行く、行かないで揉めていた。
そこに――半裸の男が乱入してきた。
「助けて!」
三人はあ然とした。近くのボロいソープ店から、半裸の男が転がり出てきたのだ。
(……あら?)
桂奈は目を瞬かせた。
三人の前に転がった男は、正確には半裸ではなく、上半身に半袖シャツを羽織っているが、ボタンが全開で薄い胸板が丸見えの、下はトランクスだけの、痩せた眼鏡の野暮ったい――美少年だった。
驚いた桂奈は、美少年が出てきた汚いソープ店を見上げた。
北荒間に、ゲイ風俗はないはずで、このソープ店は老舗で店が変わったとも聞いていない。
美少年が三人を見比べ、井上に縋りつく。
「た、助けてください! 友達がヤクザに捕まって……警察を呼んでください!」
三人はそれぞれ訝しげな顔を見合わせ、それから美少年に向き直った。
「……警察ですけど」
気味が悪いほど、三人の声が揃った。
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