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「……古谷巡査長、仕事をしてください」
恐るべき、捜査一課管理官である。桂奈の邪な考えはあっさり見抜かれていた。
「は、はい」
桂奈は怖くなって、仕事に戻った。ボーイ兼店長の元に近づく。
「店長! これはなにごと?! 穏やかじゃないわねぇ」
口髭の老齢店長は、昨年まで北荒間風俗組合の組合長を務めていた。今年になって、ちぇりーはんとの店長に組合長を譲った後も、北荒間でも最古参の店とあって、北荒間や組合に今でも顔が利く。
当然、荒間署生活安全課とも知らない仲ではなかった。
その年老いた店長が、言い訳を探しているのか慌てふためく。
「桂奈さん、これは……いや、違うんですよ。これはね、こっちが被害者で……」
「はぁ? 裸の男性を正座させといて、被害者?!」
桂奈は店長に凄みながら、シュウイチを振り返った。井上が自分のジャケットをシュウイチに渡し、シュウイチは恐縮しながらジャケットを肩に羽織った。
メガネのナオヤは、ダサいメガネの奥の黒目がちの目を潤ませ、シュウイチをジッと見つめていた。
それは、健気に――。
(あら~)
桂奈の頬がわずかに緩む。
と、冷たい視線を感じ――ハッとする。穂積が、桂奈を睨んでいる。
「ちょっと整理させてください。えっと……君たちは、ここに遊びにきたの?」
桂奈は真面目な警官の顔を作って、シュウイチとナオヤに訊ねた。
「え?! は、はい……」
「お巡りさん! この店、ボッタクリなんです!」
シュウイチが歯切れ悪そうに答え、ナオヤが憤懣やるかたない様子で訴えた。
「六十分で五万五千円なんて、高すぎますよね?!」
「ご、五万?!」
「たっけぇ……」
ナオヤの訴えに、桂奈は耳を疑った。シュウイチに付き添う井上も、低い声で驚いた。穂積が、呆れたようなため息を吐いたのが聞こえた。
桂奈は目を眇め、店長を振り返った。
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