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スケベ親父にささやかな嫌がらせをしたつもりだったが、思いの外効いたらしい。井上は、もう一つオエッと唸った。
それを見て、穂積が小さく噴き出す。
「そんなサービスしてたなんて知らなかったけど……それなら料金が割高になるのも、仕方ないか……」
「でしょう?!」
桂奈が渋々同意し、店長の目が輝く。しかし、裸の若者たちは驚愕して声を上げた。
「ええ?! な、なんで?!」
メガネのナオヤが、大きな目を見開いて桂奈を見つめる。
桂奈は申し訳なさそうにナオヤを見た。
「風俗でね、逆3Pの時は、女の子二人分の料金を請求するところが多いのよ。男が二人に女の子一人じゃ、危険も多いし、女の子の負担も増えるし……そうじゃないと、嫌がる女の子が多いみたい。ねぇ、店長?」
「え? ええ、はいはい」
店長は大げさに何度か頷いた。
その動きが怪しくて――桂奈は眉根を寄せた。
「店長、もしかしてそのこと、ちゃんと説明しなかった?」
「まさか! 全部、ちゃんと説明して、納得してもらいましたよ!」
「それなら……」
なぜ、シュウイチとナオヤはサービス料の支払いを拒否したのか――。
桂奈は、うつむく裸の若者を見つめた。
桂奈の鋭い視線に、ナオヤが顔を上げる。
「……あんなお婆さんだなんて、聞いてない!」
「お、お婆さん?!」×3
ここでもまた、異色の警官トリオの声がきれいに重なった。
ソープランドに入ってきてから、この場が気に入らないのか、言葉を発さず気配を消し続ける穂積まで、大きめの声で訊き返した。
「誰が、ばあさんだよ」
地獄の底から響いてくるような、低いダミ声だった。
声だけでは、男か女か判別できないが――。
「幸代(さちよ)さん?!」
待合室の奥からヌッと現れた人影に、桂奈は頓狂な声を上げた。
「桂奈ちゃん、さっさとこの場をどうにかしてよ。面倒なことになって困ってんのよ」
恐ろしく声の低いその女性は、桂奈のよく知る人物だった。彼女は、保安係御用達のラブホテル「M」で、フロント係をしているのだ。
いつもは受付の擦りガラス越しに話すが、何度も顔を合わせているし、その低い声は彼女に間違いなかった。
しかし――桂奈は、彼女の出で立ちが信じられなくて、上手く言葉が出てこなかった。
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