137人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
「そんなぁ!」
ナオヤが悔しそうに声を上げる。しかし隣のシュウイチが、まだ抗議を続けそうなナオヤを止めた。
「諦めよう、ナオヤ。お前が払った分は俺が返すから、もう帰ろうぜ?」
シュウイチの方は、とにかく早くこの店から出たいようだった。
幸代がため息を吐き、店の奥に引き返し、すぐに戻ってきた。
「……坊やたち、北荒間で遊びたいなら、もう少し勉強してきな」
そう言って、幸代はシュウイチたちの服と荷物を彼らの前に放り投げた。そしてまた、面倒臭そうに奥に戻っていった。
慌てて着替え始めた彼らを尻目に、桂奈は店長のそばに寄った。
事態が収拾して落ち着くと、店長は別のことが気になったらしい。店長は口髭を擦りながら、見慣れぬ警官二人を見ていた。
「桂奈さん、あの人たち……誰よ? 随分毛色の違う男だね」
北荒間が長い店長は慎重だ。近づいてきた桂奈に、声を潜めて訊いた。
桂奈はさらに声を小さくし、店長に耳打ちする。
「実はね、本部のお偉いさんと、そのお付なの。お偉いさんの方がね、結婚前に北荒間で遊びたいんだって」
店長がチラッと穂積を見て、目を瞬かせる。
「そりゃまた、結構な趣味だね。金も持ってるだろうに、よりによって北荒間で遊びたいなんて。それに、婦警に北荒間を案内させるって……」
桂奈はいつもいじめられている仕返しに、くだらない意地悪を思いついた。
これは穂積のため、穂積や井上が北荒間にいたことを口止めするため、という言い訳を盾に、面白おかしく脚色してやる。
「……相当な変態、なんだって。あたしに案内させるのもプレイの一環らしいよ? これから連れてくの、ここの前のM性感だから」
ああ、と店長は大きく頷き、ニヤリと笑った。
「お堅い職業には、ドMが多いって聞きますもんね。日本の警察も、色んな人がいるもんですな」
穂積が変態、と信じた店長に、桂奈は内心で大笑いした。
その悪い心をひた隠し、桂奈は真面目な顔で店長に頼みごとをする。
最初のコメントを投稿しよう!