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「ねぇ、シュウイチ……いっつも北荒間で、女の子とHしてたんじゃないの? シュウイチは北荒間で百人斬りだって言ってたよね? それなのになんで、北荒間のこと詳しくないの?」
「え?! そ、それは……」
シュウイチは、店にいた時からどうにも歯切れが悪い。
桂奈は首を傾げ、シュウイチを見つめた。
先に感づいたのは、井上だった。
「……あんた、風俗初めて……つうか、童貞じゃね?」
ブホッ。汚い鼻息を響かせたのは、桂奈――ではない。
桂奈が音の方を振り返ると、腕を組んで澄ました顔の穂積が、わざとらしく咳払いした。
「シュウイチ、童貞なの?!」
「はぁ?! ど、童貞じゃねぇし!」
「ウソだ! だったらなんで、北荒間のこと全然知らなかったの?」
「北荒間に来たことあるのはウソだけど……童貞、ではないからな!」
シュウイチの童貞を巡る口論は、しばらく続いた。
それを眺める桂奈は、確信した。
シュウイチは――童貞、である。
ムキになればなるほど、シュウイチの汚れのなさが目立った。桂奈は毎日、北荒間で鼻の下を伸ばしたスケベ男たちを見ているのだ。
きれいな若者は、北荒間に似合わない。
「余計なお世話だと思うけど……あんまり問い詰めないであげたら? 君たちの年なら、同じ年の友達には童貞じゃないって言いたいんじゃない?」
桂奈は苦笑いして、可愛い見栄を張ったシュウイチを擁護した。
シュウイチは決まりが悪そうに、口を尖らせて俯いた。その目元が赤いのが、なんとも可愛らしい。
ナオヤは、友達を傷つけてしまったと申し訳なくなったのか、俯くシュウイチを不安そうに覗いた。
「シュウイチ、ごめんね。俺……シュウイチが童貞で嬉しかったんだ……」
(んんん?)
二人を微笑ましく見つめていた桂奈の耳が、ピクピクっと反応する。
「嬉しい? なんで?」
シュウイチが不思議そうにナオヤを見る。
ナオヤは遠目にわかるほど、赤くなった。
「あ……」
「え……?」
真っ赤なナオヤに、シュウイチもなにか感じたのか――赤くなる。
(あらららら~)
桂奈はニヤける顔を隠すため、両手で口元を覆った。
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