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残念ながら、北荒間のラブホテルは男同士では入れないのだ。特殊な立場の男たちを除いては――。
その時、美しい悪魔――が、若く世間知らずな大学生たちに、囁いた。
「二十歳を過ぎてるとはいえ、君たちはまだ学生なんだろう? こんなところにいるもんじゃない。俺が送るから、早く帰りなさい」
ストロベリー・バスにいる間、気配を消し続けた穂積が、怖ろしいほど優しく微笑み、大学生二人にそう声をかけたのだ。
さっきまでろくに口も利かなかった美貌の男が、突然笑顔で自分たちに話しかけてきて、大学生二人は大いに戸惑った。
しかし、テレビで見かけるような美しい男に優しく微笑みかけられれば、男であっても気を許してしまうらしい。二人は、じゃあ、と大人しく従ってしまった。
(童貞がピンチ!)
桂奈は――興奮した。
穂積が同好の士、であることは大輔から聞いている。
穂積は、見たことのない優しい笑顔で彼らと会話し、見事彼らの自宅を聞き出した。
ナオヤは実家暮らしだが、シュウイチは荒間市内の別の駅近くのアパートで一人暮らしだと聞いて――穂積の目が妖しく光った。
桂奈は悩んだ。
可憐な美少年のナオヤは穂積の好みではなく、穂積の狙いはシュウイチだと思われるが、タフな穂積のことだから二人まとめて相手にすることも――。
(可能なはず!)
デキる男は、夜もデキるものだ。
桂奈は興奮して、鼻息が荒くなって、顔も赤くなった。
「……古谷さん、俺は表の通りでタクシーを拾って、彼らを自宅に送ってから帰ります。井上さん、なにか進展があったら、必ず、全て俺に教えてください」
では。と、穂積は桂奈たちに有無を言わさず、大学生二人を引き連れ、歩き出した。
ナオヤとシュウイチが去り際、桂奈たちに何度も頭を下げた。
桂奈は、無垢な彼らに、切なくも甘酸っぱい思いで胸がいっぱいになった。
(さよなら……童貞大学生……)
ん? と首を傾げる。
童貞大学生――彼らもまた、DDであった。
桂奈は一人でこっそり噴き出した。
「……へぇ、管理官ってあんなに面倒見がいいんだ?」
なにも知らない井上が、穂積の意外な一面に感心している。
穂積の秘密を洩らしたら、桂奈の命はない。
警察官としても、もしかしたら人としても――。
だからもちろん、桂奈は、そうですねぇ、と素知らぬフリをした。
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