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穂積たちと別れた桂奈と井上は、荒間駅に向かって歩き出した。
すっかり日も暮れ、週末ほどでないにしろ、北荒間が賑わい始めた。その賑わいを、井上は興味深そうに振り返るが、桂奈は無視して早足で歩いた。
やがて二人は北荒間から出て、荒間駅へ続く商店街に着いた。
桂奈は少しだけ、歩くスピードを緩めた。ちょうど、チェーン店の居酒屋の前を通った。
「なぁなぁ桂奈ちゃん、奢るから飯食って帰ろうぜぇ?」
居酒屋の看板を眺めながら、井上がしつこく桂奈を誘う。桂奈は何度も断ったのに、だ。
桂奈は足を止めず、ため息を吐いた。
「結構です……てゆうか、イヤですよ。こんな職場に近い所で、井上さんと食事してるところ誰かに見られたら、なに言われるかわからないですもん」
「ええ~、俺、桂奈ちゃんとだったら噂になってもいいんだけどなぁ」
井上がデレッとニヤける。
桂奈は顔をしかめた。愛妻家の、謎の遊び人アピールにはウンザリだ。
「最近は不倫とかうるさいんだから、噂だけでもどうなるかわかりませんよ? 最悪、捜一から飛ばされるかも……小野寺さんみたいに」
「容赦ねぇな、桂奈ちゃん!」
ヒデェ、と言いながら、井上はゲラゲラと笑った。
「……でも小野寺もさ、本部に戻るの諦めるのは、まだ早いと思うんだけどな」
「小野寺さん、ここの仕事楽しんでるから、捜一に戻る気ないと思いますよ?」
「そうかねぇ? けどさ、あのDDくんが捜一行きになったら、小野寺の気も変わるんじゃない?」
桂奈はギクリとして、隣を歩く井上を見つめる。
目が合うと、井上はなんでもない風に、ん? と首を傾げた。
井上が、大輔と晃司の関係に気づいたわけではないようだった。
桂奈は、どういうことですか? と慎重に訊いた。
「小野寺、やたらとあのDDくんを目にかけてるじゃん。あのイケメンが捜一に来たら、小野寺もついてくんじゃねぇかなぁ?」
「井上さん……妙に小野寺さんに拘りますね」
桂奈は気になってしまった。
(もしかして井上さんって、小野寺さんのこと……)
チラリと井上を見る。
夜になったからか、うっすら髭が見える。
濃い顔が、明るい時間よりいっそう濃くなっていた。
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