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(やっぱり、ないわぁ……)
晃司は、顔の造作は濃くないが、ムキムキの体や溢れ出る男臭さが――濃い。
いくら井上と晃司が仲が良くても、その二人のカップリングでは濃すぎて、オヤジ臭すぎて、胸やけしそうだ。
ないない、と首を横に振る桂奈。
「実は俺さ、次の昇進試験受けろって、上に……課長に言われてんだよね」
「え? 昇進試験てことは……」
井上は現在、捜査一課所属で、階級は巡査部長である。その上の階級は警部補で、警部補以上になると警察本部で主任に就ける。
捜査一課で主任になるということは、一課の中に何班かある捜査班の、班長に就くということだ。
「そ。来年あたり、俺に班を持たせたいって話があんの。それで、気が早いけど、今のうちに有能な捜査員を確保しておきたいってわけ」
桂奈は、井上の飄々とした仮面に隠した野心に感心し、抜け目のなさには半分呆れた。
くだらない妄想をしていた自分が、可愛く思える。
「俺の下に、小野寺。それに……DDくんも。まだ危なっかしいけど、使えそうだなって狙ってんだ」
「でも……うちの原係長も、二人のこと気に入ってるみたいだし、簡単には手放しませんよ? それに、大輔くんはともかく、小野寺さんが井上さんの下なんて絶対に嫌がりそう」
井上は晃司を気に入っているようだが、晃司は井上を煙たがってるように見える。
それになにより――。
「小野寺さん、穂積管理官とも微妙みたいだし……」
晃司が捜査一課に戻りたがらない最大の理由は――穂積、のような気がする。
桂奈は、元からの二人の因縁と、大輔を巡る三角関係を思って、そう呟いた。
井上が、ウンウンと大きく頷く。
「それな! 高校の部活の先輩後輩だったっていうのに、なんであんなに仲が悪いの、あの二人。女でも取り合ったのか?」
桂奈はドキッとした。口を固く引き結ぶ。
絶対に――なにも喋ってはならない。
「……て、あいつら一高出身か。あそこは男子校だから、それはないか。だったらなにが気に食わねぇんだろうなぁ……」
桂奈は、無言を貫いた。
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