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二人が駅の改札に着く。数年前に駅が改修されて、改札も広くなったが、年々宅地化が進む荒間市の中心駅では、すでに手狭に感じた。
どんどん人が降りてくる。改札でモタモタしていると、大いに迷惑だろう。
「井上さん、電車、私と反対方向ですよね? じゃあここで」
そう言って、桂奈は肩にかけたショルダーバッグを開け、パスケースを探し出した。しかし、パスケースが見当たらない。いつもどこに入れたかわからなくなるのだ。
あれ? と言いながらバッグの内ポケットを探す桂奈に、井上が真面目な声をかける。
「なぁ、桂奈ちゃん」
珍しい声音に、パスケースを探すのを止めて顔を上げる。
「さっきの話だけど……俺、桂奈ちゃんもいいな、と思ってる」
井上は、一つ深呼吸した。
「桂奈ちゃん、本部に戻る気ない?」
真剣な眼差しだった。井上が、いつもの冗談を言っているのではないとわかった。
その真剣な目に、桂奈はしばらく考えた。
あ、と声を上げる。今朝は、パスケースは内ポケットではなく、外のポケットに入れたことを思い出した。
バッグの外のポケットに手を入れると、パスケースはすぐに見つかった。
「すいません、お待たせしました。電車来そうだから、入りましょう?」
「……桂奈ちゃん」
桂奈は答えず、先に改札に入った。井上もついてきた。
改札を入ったところで、再度井上に別れを告げる。
「じゃあ井上さん、なにかわかったら連絡しますね」
井上が、なにか言いたげに桂奈を見つめる。
桂奈は――井上には嘘を吐けないだろうと、悟った。
「井上さん、少し考えさせてください。私……諦めてはないです」
本部に返り咲くことを。
桂奈の乗る電車の到着時刻が迫っていた。桂奈は一礼して、ホームに走った。
階段を駆け上がると、ちょうど電車がホームに滑りこんできた。
ドアが開き、たくさんの人が降りてくる。その波が止むのを待って、桂奈も電車に乗り込む。
桂奈は、諦めていなかった。
電車が荒間駅を離れる。
北荒間で終わる気は、なかった――。
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