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加恋から呼び出された桂奈は、メッセージがあってからすぐに、適当な用事を作って北荒間に出かけた。
加恋は晃司のお気に入りで、加恋も常連客の晃司を悪からず、と思っているはずだ。その加恋が晃司ではなく、自分に話があるとは珍しい。
桂奈は自然と急ぎ足になった。
荒間署から五分ほど歩き、加恋の勤め先「ちぇりーはんと」が入るビル近くのコンビニに着いた。
いかにもコンビニに用があるように装い、店の前で何気なく腕時計を確認する。
「あれ~、桂奈さん?」
甘くおっとりとした声で桂奈を呼ぶのは、同じようにコンビニに来たフリをする加恋だった。
「あら加恋ちゃん、久しぶり。……お店は? 休憩?」
桂奈と加恋は、互いに偶然を装った。
加恋は桂奈と二人で話すことを望んだ。それは秘密の話がある、ということだ。
しかし桂奈は、北荒間では警官だと知られているので、内緒話をするには偶然会ったフリをするしかなかった。待ち合わせているところを街の人間に見られれば、たちどころに生安課や保安係の同僚に伝わってしまう。
「うん。今日はすっごく暇で……店長が休憩入っていいって言うから、甘い物買いに来たんだ」
「そうなんだ。あたしは見回りついでに……ちょっとサボリ」
桂奈がおどけてそう言うと、加恋は口元を押さえてウフフと笑った。その動作だけで、胸元が広く開いたTシャツからのぞく谷間が波打った。
スレンダー――とあえて言わせてほしい――な桂奈は、加恋の豊満な胸元を羨ましそうに見つめた。
「加恋ちゃん……胸、開きすぎじゃない? お店の外なんだから、そんなにサービスしなくてもいいと思うよ?」
桂奈が男性警官だったら、セクハラで訴えられたかもしれない。しかし加恋は楽しそうだった。
「やだぁ、桂奈さんってばママみたい!」
「ちょっと! あたし、そこまで年いってないよ!」
二十歳そこそこの加恋の母親役は、まだ勘弁してほしい。桂奈が必死になると、加恋はますます楽しそうに笑った。
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