第4章

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―――しかし、常にその事が頭の中で過ぎって……リンさんをしっかりと受け止めてあげられなかった。 「……翔君?」 「あっ…いや……何でもないんです!気にしないで下さい!」 「……そう、か…。」 寂しそうに笑う彼を見て、また胸が締め付けられた。 彼を抱く時。 彼と久し振りに出掛けた時。 ―――俺は理性を失う。 彼を、どうしても手に入れたくて。 何とかしないと……彼を誰かに取られてしまいそうで。 俺は、焦ってたんだと思う。 ……俺には、時間が迫ってきていたから。 「翔君……来週って、来れる?」 「来週……あ、すみません。その日は大事な約束があるので……。」 せっかくリンさんに誘ってもらえたのに……その日はリンさんの母親との約束が入っていた。 その俺の返事を聞いたリンさんの表情って……どんなものだったと思う? 「……そっか、分かった。じゃあ、またね。」 ―――その時の彼が……余りにも消えそうで、儚くて……俺は玄関から彼を呼び止めた。
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