第1章

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吉田が負けた。 最初のポイントを奪われる寸前の、立って組んでいた時、左腕を首に巻いて投げる仕草を見せた。 あれが魔の瞬間だったと思う。 伊調と吉田。 共に四連覇を目指した二人だが、伊調は今年負けてニュースになった。 吉田は 200連勝中。 吉田が負けたから言う訳では無いが、伊調は大丈夫だが吉田は危ないと思っていた。 魔の瞬間に繋がる話しなので書く。 伊調は10‐0 で完敗。 無敵の伊調らしからぬ負け方だったから、俺は逆に勝てると思ったのだ。 吉田も伊調も三十路を越えた選手であり、身体に変化が生じる時期に差し掛かってきた。 三十路とは、瞬発力や対応力に微妙な誤差や遅れが出る年齢なのだ。 勿論、それを補う経験の力があるから、トータルで考えたら円熟期=最強期と言える時期なのだが、この最強期には落とし穴があって、瞬間的強さは低下している。 伊調も吉田も、それまでが絶対的女王でありすぎて、その瞬間的強さの低下は実感が無かったのだと思うのだ。 それは、二人とも世界中から研究され、対策をされまくり、打倒吉田・伊調で標的にされ、それでも尚且つ不敗だったからだ。 完敗した時の伊調は、あれあれあれって思いながら負けたと俺は思う。 だから負けた体験が心身の準備を作り上げていて、劣勢の中でも勝機を掴む忍耐力と、冷静な判断からくる最後の最後の自信があったのだと思うのだ。 勝っていた吉田にはそれが無かった。 多分、吉田程の選手だから、俺が書いた事など理解していたと思う。 だから人1倍の練習を積んだんだし、体調管理も出来た。 インタビューで何回も年齢の事を話していたのも、自覚があったからなのは間違いないし、準備も万端だった。 だから、あの魔の瞬間までは絶好調だった。 相手選手は圧倒されていたし、あの魔の瞬間の寸前までは苦し紛れだった。
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