第1章

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 夏なんて無くなればいいのに。毎年この時期になると思う。。両手に抱えたバーベキューコンロ一式と墨を抱えて悪態を吐く。まだ朝の八時だというのに真夏の日差しが両腕をじりじりと焼いてくる 「おー。佐藤こっちだ。こっち」  前方に見えるバーベキュー会場から島田係長が手招きをする。うちの会社の恒例行事、年に一度夏に親睦会と称して行われる大規模飲み会だ。うちの会社は人数だけは多いのでバーベキュー会場は今日はうちの貸し切りだ。そのせいなのか、みんな好き放題に飲んでいる。島田係長はすでにビール片手に顔を赤くしている。いい気なものだと思う。入社三年目の下っ端の僕はこういう時は準備係だ。  会場まではあと100メートルほどだが、15キロはある荷物を抱えていると果てしなく遠く感じる。というか、見えているなら手伝ってくれてもいいだろうと心の中で毒づく。口に出す勇気はない。そんな事を思っていると前方から二人の人物が駆け寄ってきた。渋谷先輩と神谷さんだ。 「手伝うよ」  言いながらコンロを僕の手から奪い取って運び始めてくれる。 「ごめん。連絡くれたら車まで取りに行ったんだけど」  僕から炭を受け取って運んでくれる。今の今まで皆に悪態を吐いていた自分が恥ずかしくなる。 「ごめん。手伝っててもらって」  思わず謝る。渋谷先輩と神谷さんが不思議そうに首をかしげる。 「手伝った方が効率いいでしょ」  いい人だ。素直にそう思った。車から食材も運んでコンロをセッティングする。炭を入れて点火材代わりに新聞紙を詰める。三年目ともなるとさすがに手馴れてくる。ガスバーナーに火をつけようとしたところで島田係長に声を掛けた。 「すいません。係長炭に火をつけるのってどうやればいいんでしたっけ?」 「しょうがないなぁ。佐藤はちょっと貸してみ?」  島田係長が呆れた様な言葉を言うが表情は満更でもない。正直に言えばもう、炭に火をつけるぐらいはできるのだが、係長にはこだわりがあるらしく、こういう時に頼っておくと上機嫌でいてくれるので頼むことにしている。僕も打算的に動くようになったものだと思う。島田係長が火を起こしてくれている間に僕は渋谷さんと神谷さんに手伝ってもらって食材を適当に切っていく。どうせ皆酔っぱらっているので適当でも大丈夫だ。
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