第1章

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食材の準備が終わったら今度は鉄板で肉を焼き始める。適度に焼けたところを島田係長や何人かの先輩が肉を取って食べ始める。皿やタレ、箸等は渋谷先輩が配ってくれたらしい。助かる。鉄板の暑さと日差しの暑さで目の前が熱気でゆがむ。汗が噴き出てきた。首にかけていたタオルで噴き出す汗を拭く。三十分程焼くことに専念していると、皆に皿が行きわたったのかようやく一段落つけた。 「お疲れ」  神谷さんが僕にビールを渡してくれる。 「ありがとうございます」  礼を言ってビールを受け取る。プルトップを開けると空気が抜ける音がした。あまりビールは好きなほうではないが今はとにかく喉が渇いていた。ごくごくと喉にビールを流し込む。干からびていた喉がうるおされていく感覚を感じる。 「あんまり一気に飲まない方がいいよ」  笑いながら神谷さんが言ってくる。細身で身長が高く人当たりが良くて正直に言えば美人だ。うちの会社内でも人気があるが、いつも上手く逃げている。僕も憧れていて素敵だなとは思う。でも、恋愛感情を持った事はない。なぜなら、渋谷先輩と神谷さんが付き合っていることを僕は知っているからだ。というか、僕しか知らない。 「最近、渋谷先輩とはどうですか?」  僕の突然の質問に神谷さんがビールを吹き出しそうになる。慌てて口元を隠す仕草が可愛らしい。 「急に何を言い出すかな」 「いえ、ちょっとからかって見ようかと思いまして」 「これでも、私君より年上なんだけど」  不満そうに頬を膨らませる。僕はすいませんと謝りながらも笑う。 「心配されなくても順調だよ」 「渋谷先輩変わり者だから苦労しませんか?」  渋谷先輩は面倒見がよくて気も回る人だが、良い意味で豪快で悪い意味で無茶苦茶なことを言う人だ。僕はそんな先輩のことを嫌いじゃないがでもそれは人それぞれだと思う。 「苦労はしているよ。いつも。この前も私の髪の毛の匂いをいきなり嗅ぎ始めたんだから。やめてって言ったら、困ったように首をかしげて、どうしてシャンプーっていい匂いがするんだろうなって言うの」 「シャンプーですから」 「だよねー。でも、想像と違う言葉が飛んできたんだよね。シャンプーの匂いよりも私の汗の匂いの方が好きだからシャンプーしないでほしいだってさ。私は汗臭いから嫌だしそんな匂い嗅がれたくないって言ったらすごく残念そうな顔してた」 「変態ですね」 「変態だよねぇ」
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