第1章

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 困ったように笑いながらビールを飲む。でも満更でもなさそうだった。こんな話を僕にするのということは多少なりとも酔っぱらっているのかもしれない。 「佐藤君はどうなの?」 「何がですか?」 「彼女。できたの?」  藪蛇だった。僕は苦笑して誤魔化す。 「いえ、出会いが無くて」 「出会いってなんだろうな」  突然後ろから肩をつかまれて神妙な顔で渋谷さんが言った。 「渋谷さん」 「皆出会いが無いって言うけどさ。出会いって何だろうな?」 「先輩と神谷さんみたいな事じゃないですか?」 「一応、言っとくけど俺は出会ったんじゃないくて自分から会いに行ったんだからな」  実際そうだった。渋谷先輩は皆が遠目で眺めているだけだった神谷さんに自分から積極的に話しかけていた。とはいえ、積極的に食事とかを誘ったわけではないらしい。世間話をしに行っていただけだった。 「まずは会話をして、俺を知ってもらうことが第一だろう? そして雫の事を良く知るためにも会話は大切だ」  雫といつも会社では呼ばない下の名前で話すあたり渋谷さんも結構酔っぱらっているのかもしれない。 「神谷さん的にはどう思ってたんですか?」 「いやー。鬱陶しい人だなと思ってたよ」  僕は肩をがっくりと落とした。渋谷先輩の言っていることは一理あると思っていたからだ。 「でも、間違ってないと思うよ。どんな関係でも相手に認識してもらわないと始まらないからね。私も、すごく鬱陶しい人だなと思ってから渋谷くんの事目に入るようになったから」  覚えたばかりの言葉が町中でよく目につくようになるのと同じことだろうか。 「実際、そうやって渋谷くんの事が目に入るようなってから君の面倒を見ている渋谷くんに気が付いたんだから」  こっそりと僕に耳打ちしてくれる。実はこの二人が付き合う理由になったのは実は僕らしい。新入社員でミスばかりを繰り返していた僕を渋谷先輩はいつもかばってくれていた。 一度大きなミスをやってしまった事がある。その時は課全員に睨み付けられ、非難を浴びた時先輩は僕の前に立ちふさがって言ってくれたのだ。 「佐藤のミスは教育係である私の責任です。文句非難は私に直接言ってください。非難を受けるのが私の仕事でそれを受けて指導するのも私の仕事です」  はっきりと言い切った事でそれ以上皆が僕を責めることはなくなった。
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