第1章

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 でも、僕は渋谷さんほど積極的になれる性格ではない。ステージ上では僕たちの課の出し物が始まるところだった。僕たちは盛り上げ要員としてステージ新入社員の女の子が浴衣を着てステージの中央に立った。その隣には中村さんも浴衣を着て立っている。新入社員のフォロー役なのだろうか。その後ろに数人の先輩が並ぶ。司会――これも従業員だ――の紹介の後、音楽が流れ始める。二、三年前に流行ったノリの良いJ-POPだった。新入社員もおじさん上司たちも知っている曲で適当にリズムに乗れるので酔っ払いたちの集団でも楽しめる選曲だ。曲に合わせて後ろの男性達が拙いながらも自信のある動きで踊り始める。前奏が終わると中央の女性二人が歌い始める。ステージ前の観客が歓声をあげた。皆が思い思いに、悪く言えば適当に体を揺らし始める。  僕も最初はビールを片手にそれを眺めて手拍子をしていたが、段々体を揺らし始める。心の中がざわざわと蠢く。悪い癖がでようとしていた。お酒を飲むとどうにも気が大きくなってしまって後先考えなく行動してしまう。一言で言ってしまえば酒癖が悪いのだ。  この絡み酒も悪いところばかりではない。まだ飲みニケーションが生きているうちの様な会社では僕みたいな飲み方は好かれるのだ。上司の酒は基本的には断らずその場を盛り上げるようにバカ騒ぎをする。便利な奴なのだ。  僕はそれを自覚している。だから、敢えてバカ騒ぎをしているというという部分もある。もちろん、お酒が苦手だという同僚や先輩にお酒を無理やり勧める事はしないし、自分のお酒の限界量も分かっているのでセーブしながら飲んでいる。上司達も「もう無理です。勘弁してさい」と笑いながら断る僕に無理矢理飲ませる程馬鹿じゃない。そういう時代じゃないと理解している。だからこそ、バカみたいに騒いでくれる僕みたいなキャラクターが便利なのだろうとも思う。ただ、その飲み会でのノリで気に入られて仕事がやりやすくなるという僕の実益もあるのでお互い様ではある。 もちろん、良い事ばかりでもない。ある程度は自分でもコントロールしているつもりではあるが、やはりアルコールの力というのは恐ろしい。自分の感情がセーブできずに無茶な行動や際どい発言をしてしまって酔いが醒めた後に死ぬほど後悔することが度々あるのだ。
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