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「先輩……無理ですよ無理。あの群れ見てくださいよ、私には入れません。私に死ねと?」
獲物に群がる狼達。私が行ったら追い返されるのがオチ。
「つべこべ言わずに来い。上客なんだから挨拶しないわけにはいかねーだろ」
首根っこを捕まれ、連行される。
ああ、生クリームパスタが私から遠ざかる。
藤田は狼どもを物ともせず、獲物に近づく。
もし藤田が女だったら許されなかったであろうことが、狼の目でわかる。
「こんばんは、いつもご贔屓にさせていただいている、『椿山法律事務所』の藤田圭吾と申します」
こちらが、と私を前に出す藤田。
ちょっと待て。金持ちの前に出る準備も自己紹介の準備もまだ出来ていない。
何とか名刺を取り出すと、それを両手で相手に渡しながら一気に頭を下げる。
「碓氷瀬菜と申しますっ、お願いしますっ」
「碓氷瀬菜……?」
名刺を受け取ってもらえた感触に、頭を上げる。
「新島晃」
新島晃。相手の言葉はそれだけ。
思いっきり目が合う。固まる。
その状態で沈黙が暫く続く。
「お、おい碓氷ちゃん?」
藤田の声で、体が動く。
「に、にーじモゴゴゴッ」
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