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部屋の暑さも相まって、私の怒りと悲しみが最高潮に達した時、玄関から物音がした。
鍵を開けるような、無機質な物音だ。
合鍵は。ふと思った。
桜井くんに合鍵は、渡していない。というか、作っていない。
だとしたら今、玄関の扉を開ける音がしているのは、おかしいのではないか。
私は、手に持っていたガラスの置物を握り、恐る恐る玄関を覗き込んだ。
家の中に足を踏み入れた男と、目が合う。
「ああ!?」
「うわっ」
何故か、泥棒に入られた私よりも驚いた男が肩を震わせると、山積みにしてあった靴たちの山が崩れ、男の足場を奪った。
まさか、日々の怠慢がトラップになるとは。
私はガラスの置物を振りかざし、身動きの取れない男を睨み付ける。
「な、何なのよ、あんた!!」
「い、いや、あの、僕」
男はまるで怪しいにも関わらず、身の潔白を証明するように、首と両手をぶんぶんと振った。
「誰なのよ、で、出て行かないと、ここっ殺すわよ!?」
「ちょ、ちょっと、待って!僕は夏木くんに」
は?私?
ガラスの置物を握る手を緩める。何で私の名前知ってるの。
そう思ったがよく見れば、この男が着ている制服は、弟と同じ高校の物だった。ということは、じゃあ。
「頼斗の友達?」
警戒心を少しだけ解き、前方の不法侵入優男に問い掛ける。
しかしその優男は頷くでもなく、ただ視線を、私の背後の床へと滑らせた。
な、なんだ。罠か?
それとも、私の後ろの床に、何かいるのだろうか。
優男はちらりと私を見たあと、また床に視線を落とす。発言を躊躇っているようにも見えた。
耐えかねた私は一瞬だけ背後の床を見たが、結局、二度見するはめになった。
ゴッ、ゴッ、ゴキ、
「ブリィィ!?」
ガラスの置物を床に落とし、私は真っ先に、不法侵入優男に飛び付いた。
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