第1章

10/11
前へ
/11ページ
次へ
部屋の暑さも相まって、私の怒りと悲しみが最高潮に達した時、玄関から物音がした。 鍵を開けるような、無機質な物音だ。 合鍵は。ふと思った。 桜井くんに合鍵は、渡していない。というか、作っていない。 だとしたら今、玄関の扉を開ける音がしているのは、おかしいのではないか。 私は、手に持っていたガラスの置物を握り、恐る恐る玄関を覗き込んだ。 家の中に足を踏み入れた男と、目が合う。 「ああ!?」 「うわっ」 何故か、泥棒に入られた私よりも驚いた男が肩を震わせると、山積みにしてあった靴たちの山が崩れ、男の足場を奪った。 まさか、日々の怠慢がトラップになるとは。 私はガラスの置物を振りかざし、身動きの取れない男を睨み付ける。 「な、何なのよ、あんた!!」 「い、いや、あの、僕」 男はまるで怪しいにも関わらず、身の潔白を証明するように、首と両手をぶんぶんと振った。 「誰なのよ、で、出て行かないと、ここっ殺すわよ!?」 「ちょ、ちょっと、待って!僕は夏木くんに」 は?私? ガラスの置物を握る手を緩める。何で私の名前知ってるの。 そう思ったがよく見れば、この男が着ている制服は、弟と同じ高校の物だった。ということは、じゃあ。 「頼斗の友達?」 警戒心を少しだけ解き、前方の不法侵入優男に問い掛ける。 しかしその優男は頷くでもなく、ただ視線を、私の背後の床へと滑らせた。 な、なんだ。罠か? それとも、私の後ろの床に、何かいるのだろうか。 優男はちらりと私を見たあと、また床に視線を落とす。発言を躊躇っているようにも見えた。 耐えかねた私は一瞬だけ背後の床を見たが、結局、二度見するはめになった。 ゴッ、ゴッ、ゴキ、 「ブリィィ!?」 ガラスの置物を床に落とし、私は真っ先に、不法侵入優男に飛び付いた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加