第1章

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アイスが食べたかった。それだけ。 老舗を気取った駄菓子屋には、1日10本しか販売されない超プレミアムアイスバーがある。 製造はなんとこの、今にも倒壊しそうな汚い駄菓子屋の店長らしく、その店の汚さとお手製アイスバーの旨さとのギャップが話題を呼び、都会の駄菓子屋には超プレミアムアイスバーを求める客で埋め尽くされていた。 いや、違う。いつもはこんなに人がいる筈がない。 なんたって、駄菓子屋なのだ、都会の。都会の。しかもまだ午前8時半だというのに、この賑わいは尋常じゃない。どう見たって10人以上いるではないか。 礼儀正しく行列、なんて出来ていないし、これじゃあ朝の忙しい主婦の時間を削って来た甲斐がないではないか。 朝飯を作って、子どもを起こして、学校に行かせ、書斎で徹夜をしている夫に飯を出して、洗濯機回して、その間を縫ってここまで来た。 客のほとんどがガキどもだった。 何でこんなにくそガキどもが湧いているのかと思えば、そうだ、夏休みだ。 ラジオ体操のついでか? 主婦にはない夏休みの、ラジオ体操のついでで、私の安らぎのひとときを邪魔するのか? 私に夏休みはないというのに? 駄菓子屋の前で、超プレミアムアイスバーの出現を今か今かと待ち構えているくそガキが、勢いあまって私にぶつかって来る。 ガキは謝るでもなく、駄菓子屋!だの超プレミアムアイスバー!だのとばかり連呼していて、私は今すぐ、奴の首に下がっているラジオ体操カードのハンコをごしごし洗い落としてやりたくなった。早起きの功績ゼロだざまあみろ。 ガキどもの中には、パンツが見えそうなほど短いスカートを履いた女子高生二人が混じっていた。 片方の、どちらかと言えば可愛い方の女が、鼻から大きく息を吸う。 「うーん、この古臭いような懐かしいような匂い、星2つだね」 いちいち採点するんだ?という私の疑問は、隣の女が代弁した。 「当たり前だし。私の鼻は世界を変えるし」 え、凄いじゃん、その鼻は世界を変えられるんだって馬鹿かお前! というやり取りをする楽しげな小娘たちも、超プレミアムアイスバーを狙っている。
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