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「へえ、それは凄いな」
正直、俺は顔に自信がないわけじゃない。告白だって何度かされたし、まあまあイケテるとは思う。
ただ、いつも並んで歩いているこいつ、遊佐が、イケメン過ぎるだけなのだ。
しかもこのくそ暑い中、汗ぐっしょりの俺とは反対に、遊佐は爽やかで汗ひとつかいちゃいない。
一体何の差なんだよ。マジで夏なんてなくなればいいのにな。
「凄く美味しかったよ。でも」
「でも?」
「僕が超プレミアムアイスバーを食べた分、誰かひとりは、食べられないんだよね」
言いながら遊佐は、悲しそうに眉を下げた。
そのセリフ、母さんに聞かせてやりたいよ。
何故かわりと落ち込んでしまった遊佐のそういうところは、嫌いではない。
元気付けてやろうとも思ったが、あの可愛い桜井との派手な失恋はそもそも、こいつが良い男というハードルを上げているせいなのだと思い出し、やっぱりやめる。
遊佐のその人柄の良さが無性に腹立たしくて、俺はポケットから家の鍵を取り出した。
「お前、小説好きだよな。何だっけ、あの、ふゆすきだ?」
「夏生雷打?」
「ああ、それだ、夏生雷打。あれさ、俺の親父なんだわ」
突然、遊佐の足が止まる。振り向くと、遊佐はそのイケメンを崩すことなく、口をパクパクさせながらこちらを指差していた。
「な、夏木くん、夏生雷打の」
「うん」
疑いの目を向けるでもなく、遊佐はただ純粋に驚いていた。
夏生雷打については何度か熱弁されたこともあったが、俺は活字なんざ微塵の興味もない。だからいつもその鬱陶しい熱弁を受け流していたが、まさか憂さ晴らしに役立つとは思わなかった。
俺は取り出した鍵を、遊佐の方へと投げる。それを慌てたように両手で受け取ると、まだ混乱のおさまらない視線を俺に向けた。
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