第1章

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「へえ、それは凄いな」 正直、俺は顔に自信がないわけじゃない。告白だって何度かされたし、まあまあイケテるとは思う。 ただ、いつも並んで歩いているこいつ、遊佐が、イケメン過ぎるだけなのだ。 しかもこのくそ暑い中、汗ぐっしょりの俺とは反対に、遊佐は爽やかで汗ひとつかいちゃいない。 一体何の差なんだよ。マジで夏なんてなくなればいいのにな。 「凄く美味しかったよ。でも」 「でも?」 「僕が超プレミアムアイスバーを食べた分、誰かひとりは、食べられないんだよね」 言いながら遊佐は、悲しそうに眉を下げた。 そのセリフ、母さんに聞かせてやりたいよ。 何故かわりと落ち込んでしまった遊佐のそういうところは、嫌いではない。 元気付けてやろうとも思ったが、あの可愛い桜井との派手な失恋はそもそも、こいつが良い男というハードルを上げているせいなのだと思い出し、やっぱりやめる。 遊佐のその人柄の良さが無性に腹立たしくて、俺はポケットから家の鍵を取り出した。 「お前、小説好きだよな。何だっけ、あの、ふゆすきだ?」 「夏生雷打?」 「ああ、それだ、夏生雷打。あれさ、俺の親父なんだわ」 突然、遊佐の足が止まる。振り向くと、遊佐はそのイケメンを崩すことなく、口をパクパクさせながらこちらを指差していた。 「な、夏木くん、夏生雷打の」 「うん」 疑いの目を向けるでもなく、遊佐はただ純粋に驚いていた。 夏生雷打については何度か熱弁されたこともあったが、俺は活字なんざ微塵の興味もない。だからいつもその鬱陶しい熱弁を受け流していたが、まさか憂さ晴らしに役立つとは思わなかった。 俺は取り出した鍵を、遊佐の方へと投げる。それを慌てたように両手で受け取ると、まだ混乱のおさまらない視線を俺に向けた。
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