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痛む後頭部の恨みも込めて、首根っこを引っ掴かんで連れ戻す気だった。
幽霊船の中は静寂に包まれ、当然明かりも重力すらも働いていない。
「ディ、何を馬鹿な真似をする。早く戻るぞ」
一分、一秒が過ぎるのが果てしなく恐ろしい。時間が経過する程に、死の危険性を引き寄せる愚かな行動を取っているのだから。
何時この彷徨える船が別の亜空間へ進路を取るかも、自分達の船がランダムなこの船の動きを追える保証もない。
一刻も早くと探したディは、一つの船室で何かを抱いて天井にうずくまっていた。
僅かな平面を晒すその場所には、あの黄金の板に刻まれたものと同じ一つの文字列が並ぶ。
無様に歪み、一つ一つの大きさもまちまちで、刻んだ者の心を映していた。
きっと死への恐怖に震えながら書き付けたのだろう。
「これは地殻変動の激しい時期に、あのルーツである星を出発した船だ。あの星は地球と呼ばれていたらしいな」
量子コンピューターから受け取った解読法をものにして、すらすらと残された文字列を読み上げるディは、腕の中に乾燥し崩れた祖先の遺体と思えるものを抱いていた。
「ああ、祖先は航行技術も未熟なまま、最も希望を託せれると選抜したこの人達を宇宙へと旅立たせたんだ。生き延びると信じてな」
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