第一章 皓月の下 其の一

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***  「ピッピッピッ…」  夜の22時20分。聖湖園総合病院手術室内。只今、一人の患者の急性硬膜下血腫除去術が行われた。  「脳が張っているから、やっぱり骨は戻せない…」  「鈴木先生、患者さんの頭蓋骨をバイオフリーザー内に保管しましょうか」  「うん、そうしましょう…いつもそういうふうにしていた?」  「あっ、はい!」  閉頭(へいとう)した後、執刀医は清潔術野の透明圧布を剥がし、患者の瞳孔の大きさを確認した。   良かった!左の瞳孔、2mmまで戻った!  ホッとした気持ちと同時に、どんよりした疲れも一気にやってきた…  鈴木貴也(すずきたかや)、31歳。脳外科医になって今年は6年目、得意分野は脳血管内治療。  1時間ぐらいの減圧開頭術、脳外科医であれば誰でもできるはずだと思われがち…しかし、外傷の症例は普段なら開頭チームの管轄になるため、血管内チームの貴也にとっては、不慣れな「大手術」だった。  「鈴木先生、術式名は左急性硬膜下血腫除去術…プラス外減圧(がいげんあつ:頭蓋骨を除去することを指す)で、よろしいでしょうか。」  外回りの看護師が記録モニターを素早くタッチし、貴也に指紋認証を求めてきた。  「はい、これで問題ないです。退室の準備をして。ICUにも連絡してね。」    「先生、院外コールが入ってきています。」  「おっと、俺のレシーバーにつないで!」   「悪い、悪い…」  聞こえてきた声の主は貴也の同期、嗣永翔太(つぐながしょうた)。本来ならば、執刀医は彼のはずだった。  「おい!お前、どこで死んでた?」  「本当にごめん!コールに気づかなかった。」  「俺もコールに気づかなったら、患者が亡くなってたぞ!」  「落ち着けよ!手術もうまくいったって、由希(ゆき)ちゃんが言ってたし。結果オーライじゃねえ!?」  「はあ?とにかく!早く来い!」
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