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「ピッピッピッ…」
夜の22時20分。聖湖園総合病院手術室内。只今、一人の患者の急性硬膜下血腫除去術が行われた。
「脳が張っているから、やっぱり骨は戻せない…」
「鈴木先生、患者さんの頭蓋骨をバイオフリーザー内に保管しましょうか」
「うん、そうしましょう…いつもそういうふうにしていた?」
「あっ、はい!」
閉頭(へいとう)した後、執刀医は清潔術野の透明圧布を剥がし、患者の瞳孔の大きさを確認した。
良かった!左の瞳孔、2mmまで戻った!
ホッとした気持ちと同時に、どんよりした疲れも一気にやってきた…
鈴木貴也(すずきたかや)、31歳。脳外科医になって今年は6年目、得意分野は脳血管内治療。
1時間ぐらいの減圧開頭術、脳外科医であれば誰でもできるはずだと思われがち…しかし、外傷の症例は普段なら開頭チームの管轄になるため、血管内チームの貴也にとっては、不慣れな「大手術」だった。
「鈴木先生、術式名は左急性硬膜下血腫除去術…プラス外減圧(がいげんあつ:頭蓋骨を除去することを指す)で、よろしいでしょうか。」
外回りの看護師が記録モニターを素早くタッチし、貴也に指紋認証を求めてきた。
「はい、これで問題ないです。退室の準備をして。ICUにも連絡してね。」
「先生、院外コールが入ってきています。」
「おっと、俺のレシーバーにつないで!」
「悪い、悪い…」
聞こえてきた声の主は貴也の同期、嗣永翔太(つぐながしょうた)。本来ならば、執刀医は彼のはずだった。
「おい!お前、どこで死んでた?」
「本当にごめん!コールに気づかなかった。」
「俺もコールに気づかなったら、患者が亡くなってたぞ!」
「落ち着けよ!手術もうまくいったって、由希(ゆき)ちゃんが言ってたし。結果オーライじゃねえ!?」
「はあ?とにかく!早く来い!」
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