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天気は生憎の雨。
ザザッと断続的な音を耳に、落ちる水滴が水たまりに輪をかけるのを横目で見守る。
カランと音を立てて崩れるグラスの中の氷が傾くと、滴る雫を気にもせず目の前の友人は声を荒げた。
「すっごい失礼だと思わない!?」
刺さるような声は有無言わさず私の耳に届いた。
聞こえている筈なのに其れに対する反応はパッとしない相槌だけ。
片手で持ったストローを何度か回すと、息継ぎも忘れ話す友人の声にまた耳を傾けた。
「ねーえ、怜、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるわよ。で、結局それは本当な訳?」
「いや、本当かどうかは・・それは・・」
はっきりしない口ぶりで俯いた友人こと凜は、そのまま罰悪そうに口ごもってしまった。
仕方ないと一つ大きな呼吸を済ますと、ストローから手を放して今度はこちらが口を開く。
「宮瀬さんも悪気があったわけじゃないんじゃない?」
「デリカシーの問題・・」
「そりゃあ、私だって言われたら腹立つけどさ」
「でしょー?それでちょっと喧嘩っていうか・・一方的に私が怒っちゃったてゆうか」
同意を得られた事にホッとして声量が大きくなった凜は、走馬燈の様にその後を思い出してまた小さくなる。
背筋が伸びては縮みを繰り返して、頭の位置がちょくちょく変わる凜を見て息を吐き出すついでに笑ってみせた。
それでも当人にとっては人に話さずにはいられない程、拗らせてしまった意地を反省してるらしい。
「それで?」
「え・・」
「それで凜は謝りたいの?謝られたいの?」
「・・わからない」
きっと意地っ張りな凜の性格を知っている宮瀬は拗れたまま手元に戻った凜に少しだけ意地悪をするだろう。
そして、その反応を楽しんで結局は折れて仲直り。
見え透いたバカップルのシナリオを頭の中でつらつらと並べては、砂でも吐きそうな程甘いシチュエーションに頭を痛めた。
「どっちか決めとかないと、また面倒な事になると思うよ」
「ぁ・・、謝りたいけど、でも・・」
「でも?」
凜も後悔しているのだろう。きっと反省もしている。
しかし、自分だけが折れる事に気分が晴れない気持ちもよくわかった。
俯いて口を噛み締めた凜の顔を覗き込む様に頭を傾げると、小さく震えた凜の頭が勢いよく上がり、そして
「でも、人の事見て『太った?』って言った事に関しては謝ってほしい!!」
今日一番大きな声で私の鼓膜を揺らした。
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