後悔も涙もキスで潰して

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「なぁ、凜」 大きな窓ガラスが惜しみなく陽の光を射しこませる休日。 私の足には少しサイズが異なるスリッパを引き摺りながら歩く廊下。 キッチンに立ち、簡単な昼食を作り終わってダイニングテーブルに運ぶその合間に呼ばれた名前は私の意識を強制的に宮瀬に向かせた。 「なんですか?」 「お前さ・・少し、太ったか?」 ソファーに座り、背に身体を預けながらこちらを振り返った宮瀬がなんの意図もなくポツリを呟いた。 両手で持ったお皿があと一歩の所で支えを失って、テーブルに鈍い音を響かせる。 たった数文字の単語が耳に入って頭で理解したときにようやく動くことを再開させた頬が痙攣を起こした。 「ふ・・、ふと・・?」 「なんか上半身がふっくらしたような」 「・・・」 「いや、顔も少し丸くなったような」 引き攣った頬に気が付いていないのか宮瀬はその後も言葉を続ける。 ぐさぐさ刺さる言葉の杭を抜ききれないまままた次の言葉が刺さって、最終的には呼吸さえも浅くなった。 「透さん、ご飯出来ましたよ?」 「あぁ、そっち行くよ」 今の私の顔は横髪がかかって表情は伺えないはずだ。 静まるように願った心中は真意は別にして中々治まらなかった。 もういい大人なんだし、そんな言葉でいちいち怒ってたらキリがないと分かっていても、真っ暗な頭の中に浮かぶ文字は言われた其れで埋め尽くされてしまっていた。 「凜?」 「・・はい」 「どうした、食べないのか?」 「食欲が一気に無くなりました」 座ったダイニングテーブルに向かい合った宮瀬が箸を持たない私に怪訝な表情を向けた。 簡単に作った食事も、箸を伸ばす気にならない。 固形物を運ぶ筈だった口元からは対照的に重たい溜息が零れ出続けていた。 「旨いぞ?さっきまでお腹空いたって言ってたじゃないか」 「誰の・・」 「ん?」 きっとエプロンを付けているからだとか、今日の服は少し大きめのを身に着けているからだとか言い訳を頭で沢山考えた。 数値的な真意を見ていないからか、不安は拭ったつもりでも薄く膜を張ってその場に留まったまま。 そして、キョトンとした顔でこちらを伺う宮瀬の顔が妙に憎らしく感じた。 食事を含んだその口を動かしながら小さく覗き込んだ宮瀬の視線と私のがかち合った時、プツンと脳内でギリギリを保っていた糸が弾け飛んだ。 「誰のせいだと思ってるんですか!?」
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