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やみくもに出た声は、日常会話にしてはやや大きく。
受け止めた宮瀬も目を丸くしたまま固まっていた。
シンッと空気が冷えたと思って、顔を上げれば合わさった目と目が罰悪く逸れた。
それは私が逸らしたもので、宮瀬はまだ私を黙って見つめている。
「・・凜?」
「・・・」
「俺、何かお前を怒らせるようなこと言ったか?」
「無自覚ですか」
馬鹿らしい。
本当に馬鹿らしい。
分かっているのに、沸騰してしまった気持ちは温度が中々下がらない。
小さい言葉なのに笑って流せればよかったのにと表情とは裏腹に頭の中では後悔ばかりが花火の様に打ちあがっては消えていった。
「あぁ、さっきの言葉か」
「・・食べましょう」
「悪い意味じゃないぞ?いい意味で言ったんだ」
「・・冷めますよ?」
「凜は――― 」
必死に抑えようと食事を促しても宮瀬の口は止まらなかった。
一回切れてしまった糸なのに、もう一回、何の音か分からないままプツンという音が脳内に響く。
ヤバいと思った時には自分の体なのに抑えが効かず、椅子が床を這う音が耳の入り込んできた。
「もういいですって!!」
「・・り、」
「分かりましたから、太ったかどうかは知らないですけど、透さんにそう映ってるなら・・なら・・っ」
「おい、凜!」
「そ、それなら・・もう・・ゃだ」
切れた糸は涙腺だったらしい。
宮瀬は自分を嫌いだと言ったわけではないのに、無性に不安だけを募らせてしまった私は無意識にその糸を断ち切って訳も分からずしょっぱい涙を流していた。
そして立ち上がったせいか、頬から落ちた雫が長い距離宙を舞ってテーブルを弾いた。
「すみませ・・ッ、ちょっと出てきます・・」
ここまで拗れた空気を戻す方法が分からなかった私は、その一言だけを残して鞄片手に宮瀬の家を飛び出した。
最後に聞こえたガタッと言う音はきっと宮瀬が椅子から立ち上がった時に鳴った音だろうか。
靴を履いてる合間にも、玄関の扉を開けてる合間も腕を掴まれる事は無かった。
そして、運がいいのか悪いのかエレベーターは今いる階の一つ上で止まっていた。
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