解答

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 だとしたら、残るはあのパイロットしかいない。  しかし、牛フィレ肉のポートワインソースがまずかったという話のどこに間違いがあるのか、見当もつかなかった。そもそも、その料理がピンときていいない。野菜の付け合せはあるのだろうか。いや、あったところで問題はないだろう。 「うーん……」 「まあ、分かんないわよね」松樹は自分の荷物をリュックに詰めながら、残った食材をクーラーボックスに入れ始める。「コパイ――つまり、副操縦士と同じものを食べて二人で愚痴ったって言ってたでしょ?」 「ええ。ですが、ごく普通のことだと思いますけど」 「それが普通じゃないのよ。今回はまずいものを食べただけだけど、もし傷んでたり毒物が混入してたらどうなると思う? パイロット二人が倒れて、でも飛行機はオートパイロットで目的地の上空まではたどり着くだろうけど、着陸できずに機体は大破炎上」 「ああ……」  杉元は流し見していたテレビのドキュメンタリー番組を思い出していた。食あたりなどで操縦する人がいなくなることを防ぐため、パイロットとコ・パイロットの二人がとる食事は分けていると言っていたのだ。  パイロットが肉だったら、コ・パイロットは魚。同じメニューを食べることはない。 「パイロットとして当たり前の知識を持っていない――つまり、嘘つきだろうということですね。しかし、たまたま間違えたのだとしたらどうですか? もしくは、盛り上げようとして作り話をしたとか」 「ないって。交通課の警察官であるあんたが、事故を目撃したけど、誰一人怪我してないし別にいいだろって見過ごしました――そんなこと、作り話でも言える?」 「まあ、言えませんね。職務意識を疑われますし、また問題になりかねません。いえ、きっとなるでしょう。パイロットも同じだということですね」  ジャンボジェット機であれば、数百名もの命を預かるパイロットだ。いくら可能性の問題だとは言え、危険な行為をしているという話を聞いてしまえば、彼の操縦する飛行機には乗りたくなくなるだろう。それは彼自身の名誉を傷つけることであり、彼の所属する航空会社の評判を落とし、結果的に自身が解雇や再教育などの措置を受けて将来を危うくさせかねない行為となるのだ。 「しかし、それがどうして小日向さんに対して、迷惑どころではない影響が出ると思うのですか?」  杉元の質問を受けて、松樹が小さく笑う。
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