解答

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「まあ、私やあんたには縁遠い世界かも知れないけどさ、パイロットとかフライトアテンダントやってるって人が来たら、まず間違いなく興味をひくわけよ。滅多にいないし、高給取りで美男美女ってイメージあるでしょ?」  その言葉で気づいた。 「もしかして……結婚詐欺師ということですか?」  松樹が頷く。 「食べ物に関する集まりって女の人が多いわけ。となると、そういう輩も寄ってくるわけよ。見た目がナイスミドル風でパイロット、なのに嘘つき。いかにもって感じでしょ? 小日向さんって真面目そうだし、毒牙にかかんなきゃいいなって思ったの」  松樹が来るまでは、こういった個人が主催する小さなイベントに参加したこともなかったし、男女が集まる場に興味もなかった杉元。  イベントが目当てではなく、イベントにやってくる参加者を目当てにした人がいるとは想像すらしていなかった。 「……勉強になりますね、本当に」 「世の中そういうもんよ。魑魅魍魎どもが跋扈してるわけ。この前の事件でも分かったでしょ?」  交通課の警察官として、経験がまったくないわけではない。相手から全てをむしり取ろうとする軽傷の被害者や、轢き殺した人をさらに侮辱する加害者など、常識から外れたような人を多く見てきた。  しかし、彼らには豹変する前兆などがあっただけに、それほどの違和感はなかったのだ。だが、あのパイロットは違う。平然とした顔をしながら近づいてきて、いつ牙を剥こうかと、虎視眈々と獲物を狙っているハンターだったのだ。 「さ、帰りましょ」  クーラーボックスを持った杉元は、リュックを背負った松樹と一緒にキッチンスタジオを出た。雑居ビルの薄汚れた階段を降りていき、外へと出る。  まだ肌寒い三月の曇天が、さらに杉元の気持ちをどんよりと曇らせた。  こんな気持ちのまま明日の月曜日を迎えるのはきつそうだ。どうやって気を紛らわそうか――そんなことを考えながら歩き出そうとしたその時、不意に前を遮った人影を見て、杉元は思わず身構えてしまった。 「ひっ」 「あっ」  それが先ほどまで一緒だった小日向だったと分かり、すぐに拳を収める。 「すいません。驚いてしまったもので……」 「い、いえ。わたしこそ驚かしちゃって、すいません」  慌てた顔で深く頭を下げる小日向。その様子を見て、後ろから顔を覗かせた松樹がやりきれないように苦笑いした。
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