解答

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「後でメッセ送ろうと思ってたんですけど……何だか、今日は気まずい思いをさせちゃってすいません」 「い、いえ。でも、そのことでお礼を言おうと思って、待ってたんです」  そう言うと、小日向は杉元に向き直し、今度は両手を体の前につけて、先ほどよりも深く頭を下げた。 「ああいう時、どうしていいか本当に分からなくて。でも、杉元さんに助け舟を出していただいて……ありがとうございました」 「いえ、そんなお礼を言われるほどでは……頭を上げてください」  随分と丁寧な人だなと思った。なるほど、松樹が心配する気持ちも分かる。  本人には失礼だが、真面目すぎるその性格が逆に災いを呼びそうな気がしたからだ。 「あの、ぜひお礼をしたいんですが……」 「いえ、本当にお気遣いなく。僕もあの空気を何とかしたかっただけですから」 「でも、すごく安心できたんです。だから、あの後はすごく楽しめましたし……せめて、コーヒーか何か奢らせていただけませんでしょうか?」  そこまで言われたら断るのもまた気まずい。横目で松樹をチラ見すると、行ってくればという視線が帰ってきた。  まあ、お茶ぐらいならそれほどの負担もないだろうし、この暗い気分が紛れるかも知れない。 「そこ、デザートがすごくおいしいんです。特に冬のものがおいしくて、まだいちご大福とかも置いてあるんですよ」 「行きましょう」  その即答に、小日向がやや驚く。 「では松樹さん。クーラーボックスは僕が後で届けますので。お疲れ様でした」  後ろは振り返らない。 「松樹さん、ありがとうございました。次の二回目も、またよろしくお願いします」 「ええ、こちらこそまたよろしくお願いします」にこやかな声の松樹。「……杉元さん。可愛いいちご大福をたっぷりと堪能してきてくださいね!」  自分のところだけ皮肉っぽい口調だったのは気のせいだろう。いや、違う。しかし、男の性には勝てなかった。正確には男ではなく、杉元の特殊な性だが。  彼は心の中で言い訳を繰り返しながら、小日向に連れられてカフェへと向かった。入ったのは、女性に受けが良さそうな、スタイリッシュな外観をした店だった。  コーヒーの香りが鼻先をくすぐる。ここでいちご大福を食べようものなら、いつもよりも強い妄想が頭の中に浮かんでしまい、席から立ち上がれなくなってしまうだろう。
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