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テイクアウトにしようか。しかし、いちご大福を家に持ち帰ってしまえば、松樹からの厳しい視線は避けられない。普通の男性が過激な性的描写の詰まったDVDを片手に帰宅するようなものだからだ。
「あの……杉元さん?」
向かいでコーヒーをすすっている小日向が、不思議そうに自分を見つめてきている。
「すいません。少しぼーっとしてしまいました。ええと……何か僕に頼み事があるというお話だったでしょうか?」
「はい。その、わたし……言いにくいんですが、造形作家をやってるんです」
「あれ? 確か、コンビニで働いているとお聞きしたような……?」
小日向が苦笑して頷く。
「すいません。その……仕事ではちょっと名前が知られてまして、素直に言うと色々と面倒なことがあるので嘘をついてるんです。説明も長くなりますし、ただ面白そうだからといって絡まれたりすることもあるので」
ああ、そういうことだったのか。
「なるほど。あの人たちですと、確かに面倒なことになりそうですね。ちなみに、造形作家とはどういうことをされているのですか?」
「わたしの場合は、テレビの制作局や企業から依頼されたキャラクターやオブジェを作ってるんです。ものにもよりますけど、大きいものだとチームを組んだりして」
「それは大変そうですね」
小日向が小さく笑う。
「でも、小さいころからこの道を目指して美大に入ったので、大変ですけど楽しいんです。趣味も仕事も一緒なので……そこで、お願いがあるんですが」
交通課勤務の一警察官に、造形作家が何の用だろうか。そこを聞こうとした矢先、小日向が両手を合わせてきた。
「どうされました?」
「あの、モデルをお願いできないでしょうか?」
「モデル、ですか?」
小日向が顔を真っ赤にさせながら頷く。
「あの、わたし……杉元さんの動画を見させてもらったんです。秋葉原駅で戦ってる……」
あの動画か、と杉元は頷いた。少し前の事件で犯人と格闘することがあり、その場所が秋葉原駅だったのだ。居合わせた人が動画を撮影してネット上にアップロードしており、ちょっとだけ人気者になったことがある。
「あの動画で戦ってた杉元さんを見て、創作意欲が湧いたんです。あの人の全身像を作ってみたいって」
「ぼ……僕のをですか?」
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