解答

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「その時に見た体のラインが、すごく綺麗だったんです。男の人の体を綺麗っていうのもおかしいと思うでしょうけど、わたしには綺麗に見えたんです。二人の犯人を相手に戦ってるのもすごくて……それから探してみたら、空手大会の動画が出てきたんです。はだけてた上半身を見て、決めたんです。この人の体を作ってみたいって」  杉元は戸惑っていた。骨の位置や筋肉のつきかたを見たいということなのだろうか。しかも全身だという。それはつまり、 「もしかして、全てを脱ぐということですか?」 「はい……」  小日向は耳まで赤く染めながら、ゆっくり頷いた。  そこで杉元は気づいた。小日向もまた、獲物を狙って虎視眈々としながらイベントに参加しているハンターだったのだ。そのターゲットは自分だった。  事前にリサーチしていただろうから、いちご大福が好きなことも知っていただろう。エサに釣られてまんまとやってきた哀れな男、それが自分だった。 「やっぱり嫌ですよね? 人前で裸になるだなんて……」  上目遣いに自分を見てくる小日向。なぜか、胸の奥が締め付けられるような気持ちになる。 「え、ええと……」  しかし、これは犯罪ではない。騙しているわけでもないだろう。なぜなら自分は警察官であることを知っているからだ。  純粋なお願いなのだ。  それに、自分の体が綺麗だと言われて悪い気はしない。松樹も褒めてくれていたのを思い出す。  もう一つ気づいたことがある。ここで断ってしまえば小日向が奇食イベントにも行きづらくなってしまい、結果的に松樹の気分を害することにつながりかねないのだ。 「……分かりました。お引き受けいたしましょう」  どちらかと言えば怯えていそうに見えた小日向の顔が、ぱっと明るくなる。彼女は両手を合わせて、何回も頭を下げた。 「ありがとうございます。杉元さんにはご迷惑をかけない形でやらせてもらうようにしますので!」  それから連絡先を交換してカフェの代金といちご大福までおごってもらい、帰路についた杉元。  松樹にはどんな風に報告しようか。そのままを言えば馬鹿にされるだろうし、隠してしまえば嘘がすぐバレる。それに、こんなことが父親に知られでもしたら、また怒られるに決まっている。義理の娘になるのは松樹以外にいないと公言しているからだ。  松樹からは呆れられ、父親からは叱られる。  もうそれ以上考えたくない。
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