問題

2/9

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「本当にすいません。延期にしてもらったのに、結局シュールストレミングの調達が間に合わなくて……来週には着くと思いますので、二回目のイベントでご提供できると思います」  キッチンスタジオというよりは、調理設備のついたリビングのようなそのスペースで、主催者の松樹はそう言って頭を下げた。長い黒髪が揺れ、先端を結いている白いリボンが揺れる。  今日は料理をするということで、松樹はエプロンの下にジーンズと薄手のセーターという動きやすい格好をしていた。  六人がけのテーブルについているゲストの男女四人が、口々にフォローを入れてくる。 「それで多くの人命を救えたのですから、仕方ないですよ。全五回ですし、ゆっくり行きましょう」  白い歯を見せながら笑ったのは、髪を丁寧に撫で付けたスーツ姿のナイスミドルだった。 「そうですわね。それに私も、あの動画の方がお友達だったなんて、そちらのほうが興味ありますから。たくましくて、とても頼りになりそう」  まるで若いツバメでも見つけたように、長い茶髪をかきあげながらスカートの足を見せつけるようにして組んできたのは、中年の女性。 「面白い食べ物にヒーローの活躍話。いやはや、今日は楽しい三時間になりそうですな」時代劇に出てくるご隠居のようにカッカッカと高らかに笑ったのは、紺の和服に茶色の上掛けを着た初老の男性。「お嬢さんも、そう固くならず。リラックスして楽しみましょうぞ」  彼から話を振られたのは、隣に座っている若い女性だった。  今日初めて会った仲なのに、もう馴染んでいる三人。彼らに圧倒されたのだろうか、白くひらひらしたチュニックにゆったりしたジーンズ姿で身を縮こませるようにしているが、かなりふくよかな体のあちこちで肉がはみ出ている。  そんな空間をぐるりと眺めながら、杉元が、 「今日はどうぞよろしくお願いいたします」  そう挨拶したところで、場が温まったと判断したのだろう。松樹がイベントの進行を始めた。  フードジャーナリストとして様々な料理や飲食店を訪ね歩き、記事に起こしてウェブや雑誌に提供している彼女。そんな活動の一環として行っているのが、SNSで企画している小さなイベントだった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加