問題

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 今回募集したのは、普段は口にしない珍しい素材や料理を味わおうという「奇食」イベントだった。もちろん、そういった食事がどうしてできたのか、なぜ食べていたのかという背景に関する知識や文化を知ってもらう意図がある。  その目玉として、本来であれば世界一臭いというシュールストレミングの缶詰を用意していたのだが、ある事件でそれを催涙ガス代わりに使ってしまったのだ。 「というわけで、第一回目の前菜は、カルパッチョからです。でも、牛肉にオリーブオイルみたいな定番じゃありません。今回は……これです」  自慢げな顔をしながら松樹がテーブルへと出してきたのは、マンボウの切り身と腸の刺し身だった。  最近では客寄せのためか珍しいものを仕入れるスーパーも増えてきており、これも今日水揚げされたばかりのものを見つけてきてさばいてもらい、その一部を持ってきたのだという。  ゲストたちがそれぞれキッチングローブを嵌めてその感触を確かめる。まな板を置き、包丁で白身を薄くスライスしていき、手製のソースに絡めて六人の皿へと置いて食事が始まった。 「これはなかなかオツですね。たんぱくな中にも深い味がある」 「私には大味かしら」 「いやいや、あっさりしていておいしいですな!」 「これがマンボウなんですね。不思議な味……」  四人それぞれがそれぞれの感想を述べながら、ゆっくりと味わって食べている。 「ご存知の方もいらっしゃると思いますが、マンボウは色々と特殊な魚なんです。びっくりしただけで死んでしまったり、水面に浮いて太陽の光で体についた寄生虫を取ろうとしてそのまま死んでしまったり。すごく繊細な生き物なんですよ。そもそも、マンボウは――」  そうして松樹の解説が始まる。中年の男女と初老男性のノリがいいのか、マンボウから脱線した話題になったりして、徐々に和やかな空気が整っていく。  今回はコース形式でイベントを進めるらしく、松樹が次の準備に取り掛かった。  そんな彼女の様子と話をしている他の四人の雰囲気を見て、杉元はほっと安堵のため息をついた。  数合わせで強制参加となったことについては文句がなかったものの、奇食イベントということで、何を食べさせられるのかを心から心配していたのだ。
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