問題

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 この簡易キッチンスタジオに来る直前まで食材を明かしてもらえず、昆虫やクリーチャーまがいのものを出されて食べることを拒否した日には、松樹からの信頼を失い、ようやく生まれかけた真っ当な人間に戻るチャンスをなくしてしまうのではないか――そんな心配さえしていたからだ。  蓋を開けてみれば、ゲテモノとは程遠い、珍しい食材の料理ということが分かって、杉元は一安心だった。 「次はイタリアの珍しい野菜、ロマネスコとイタリアンタンポポのサラダです。ロマネスコのこの模様、細かい感じのをフラクタル模様って言うらしいですよ。ピクルスにしてもおいしいんです」  出されたのは、甘い香りとピリ辛の野菜を使ったサラダだった。みな、ゆっくりと咀嚼しながら、野菜本来の味を確かめていく。  このタイミングで提供されたのは、日本の各地方で作っている地ビールだった。それを飲みながら次に味わったのは、あらかじめ作ってきたという煮りんごのアップルスープ。抑えられた甘みにほどよい酸っぱさの味は、普段飲んだことのない新鮮な感覚を与えてくれる。  アルコールも入ったことでさらに話が弾む中、今日のメインディッシュとなる食材がクーラーボックスから出されると、杉元も含めた五人が一斉にどよめいた。  それは、六つの目玉だったからだ。松樹がかねてから頼んでいた業者から朝イチで受け取ってきたのは、マグロの目玉。彼女は小ぶりだと言ったが、それでも八十キロ級のマグロから取り出してきたものなので、大きさは人の手のひらほどもある。見た目はかなりグロテスクだったが、それでも食い道楽の血が騒ぐのだろう、杉元以外の四人はどんな味がするのかと楽しそうにしていた。  下ごしらえから始めた松樹を横目に、アルコールで顔を赤くさせた中年の男女と初老の男性の話が盛り上がりを見せてきていた。 「そう言えば、一昨年ぐらいに食った納豆はまずかったですなあ」  三本目となるビールを飲みながら、初老の男性が酒臭い息を吐きながらそう言って笑う。 「まずい納豆? まあ、確かに納豆にもピンキリはあるでしょうが、まずいのに出会ったことがありませんね。まさしく腐っていたんですか?」  ナイスミドルの男性も、少し顔を赤くさせながら楽しそうに話へと乗ってくる。
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