問題

5/9

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「いや、まさしくまずかったんですよ。仕事の片付けが終わった後に、うちの家内が茨城旅行から帰ってきましてな。向こうで本場の納豆を買ってきてくれたんですが、それがまあまずい。腐臭とかじゃないんですな。ヨーグルトだか何だかを使ったのか知らんが、すっぱくてですな」  三人は笑いあっていたが、杉元と若い女性だけは苦笑いしていた。それもそうだろう。今回は、奇妙だったり珍しい食べ物ができた背景にある文化や歴史を学ぼうという会なのだ。  そう言えばと、杉元は会話を振り返った。確かに最初でこそ当たり障りのない無難な話をしていた三人だったが、ビールを飲み始めたあたりから、少し気遣いのできていない話題を出し始めていた。  どうやら、そういう人が集まってしまったのだと、杉元は松樹の様子を伺いながら話に耳を傾ける。 「ああいう、奇をてらったのを作るのはまあいいでしょう。あいつらも食い扶持稼ぎで大変でしょうからな。しかし、マズいものを食わせられるこっちの身にもなってもらいたいもんです。親の顔が見てみたいと思って、ホームページを見てみたら、まあ、案の定でしたな」  高らかに声を上げる初老の男性に合わせて、中年の女性もほほほと笑う。 「それは災難でしたわね。私、たまにラジオで頼まれて食レポみたいなことをするんですよ。この前も、名前は言えないんですが、大物芸人さんと一緒にお仕事をしたりして」 「おお、それはすごい」 「そういう仕事をしてると、マズいものに合うんですよ。この前も、アメリカ人のお宅でごちそうになったケーキは本当に最悪でしたわね」 「いやはや。タレントさんとは露知らず。道理でお綺麗なはずですな。しかし、マズいケーキというものも珍しい。あれですか、砂糖まみれで親の仇のように甘かったんですかな?」 「それだったら、まだマシですわ。その方、江戸文化にハマっているだとかで、しいたけの学名が日本語で『江戸です』だと知ってから、何の料理でもしいたけを入れる変人でして。お手製のしいたけケーキをいただいたんですが、あれがまずくてまずくて。欧米人の舌はやはり雑にできているんだなって思いましたわ」  場の空気を読まないばかりか、人を笑いものにして自分をよく見せるタイプの人もいたことに、杉元は小さくため息をついた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加