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「ディレクターがネタ探しして見つけてきたのがそれでしたから、私、思わずADを叱りつけてしまいました。お子さんはもう毒されているらしくて、おいしいと連発していたものですから、可哀想にと声をかけてしまって」
感覚が一緒なのだろう。今度は中年の男性が吹き出して笑い始めた。
「いやはや、どちらも大変でしたね。しかし、お二方は特別な食べ物や手製の料理がまずかったのだから、まだいいですよ。私なんて、機内食がまずかったんですから」
中年の女性がふっと笑う。
「きっとアジアかどこかの飛行機だったんですわね。私も海外のフライトが多いから経験ありますもの」
「いやいや、それがまさかの日本なんですよ。どこの会社とは言いませんが、ある日のフライトで出た牛フィレ肉のポートワインソースを食べたんですが、まあ、あれがまずかったですね」
「さすがキャプテンですわね。いいものを食べていらっしゃる。ですが、マズい要素が見当たりませんが。機内食は手作りじゃないですよね?」
「だからこそですよ。ビジネスクラスのを回してもらったんですが……まあ、ハズレだったんでしょうね。肉はガチガチ、ソースはすっぱい。付け合せの野菜もろくに煮えてない状態で。コパイのも同じだったらしくて、二人して愚痴ってましたよ。それが有名シェフ監修の機内食だからタチが悪い。日本も落ちたものですね。これだから中国に抜かされるのですよ」
そうして、マズい食べ物の話で大いに盛り上がる三人。
料理をしている松樹の表情は変わっていないが、声は届いているはず。きっと、このイベントは失敗だったと悔やんでいることだろう。奇食イベントの趣旨もろくに理解せず、自分の立派さや偉さを示す意味も込めて、マズい食べ物を提供した人を小馬鹿にしている人たちが集ってしまった。
「そういや、小日向さんは確か、コンビニのバイトでしたな。廃棄というんでしたか? そういうのでマズいのに合ったことはありますかな? まあ、コンビニの食べ物自体がマズいという話もありますが」
そう笑いながら、初老の男性が突然、小日向へと話を振り始めた。
どう返していいのか分からないのだろう、太った体を縮こませて戸惑っている小日向。
「いくらバイトとはいえ、自分のところの商品に悪いことは言えませんかな? 今日ぐらいはいいのですよ」
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