問題

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 明らかに絡んでいる。これは見過ごせないと、杉元はやおら立ち上がり、松樹のほうを大げさに眺め見た。 「おっと、みなさん。今日のメインディッシュがいい具合に出来上がってきましたよ」  その声に、ほろ酔いの三人が腰を上げて、松樹の手元に視線を投げる。そこには、豆腐や葱、白菜などを煮込んでいる醤油ベースの鍋に目玉が六つ浮かんでいる光景があった。 「これまた見事ですねえ」 「見た目はグロテスクですけど、確かに食欲をそそりますわね」 「ええ。みなさんはそこでお待ちください」  立ち上がった杉元が鍋を持ってきてテーブルに置き、松樹が皿を用意して食事が再開となった。  マグロの目玉という新しい味に舌鼓を打っていた三人だったが、ひとしきり食べ終わると、またマズいものの話をし始めようとする。それに気づいた杉元は、 「そう言えば、小日向さんは松樹さんのフォロワーだったそうですね。こういう独特な食べ物に興味があったのですか?」  三人の会話を遮るようにして、無理やり小日向へと話を振っていった。 「あ、は、はい……」  戸惑いながらも、小日向はマグロの目玉を食べながら恥ずかしそうに喋り始める。 「松樹さんの、食べ物に関する知識が面白いのと分かりやすくて、それで興味が出てきたんです。世の中には色んな食べ物があるんだな、って。それで、今回、思い切って参加してみたんです。私、今までずっとコンビニ弁当とかそういうのばかりで……もっと、食べ物について知りたくて」 「珍しい食べ物や知らなかった味を知ると、世界が広がりますよね。この目玉はどうですか?」 「見た目はすごいですけど、味はしっかりとお肉な感じで……昔の方は、どうして目玉を食べようと思ったのか、不思議です」  流れを取り戻せそうだ。杉元が視線を向けると、松樹はにっこりと笑いながら頷いて口を開いた。 「縄文時代からの遺跡からも、マグロの骨や目玉が出てきたそうです。全てを食べる、その根底にあるのはアニミズムなんでしょうね。この世のありとあらゆるものに神様が宿る、そういう文化の中に生まれたので、命を粗末にできない。命をいただくわけですから、いただいた相手が悲しまないよう、全てをおいしくいただく。……って話だったらいいな、なんて」  すると、小日向さんが小さく吹き出したのを合図に、みなが笑いだした。
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