問題

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「まあ、昔のことですから。栄養のあるものであれば何でも食べた、その一環なんだと思います。せっかくいただいた命なんだから、どうにかして全てを使う。日本人はそういう気質がありますよね。クジラなんかはその最たる例だと思います。日本人は、クジラのありとあらゆる箇所、全てを使っていたんだそうです。食べる以外にも」 「クジラを食べる以外にも? 何に使ってたんですか?」 「例えば鯨油、油ですね。他にも――」  そうして、話は元の流れへと無事に戻っていった。杉元はこの日二回目となる、安堵のため息をつく。  松樹の豊富な食の話を聞きながらマグロの目玉を食べきった一同は、次のデザートへと入った。それはチェリモヤという、外皮が緑色をした果物だった。世界三大美果や森のアイスクリームと言われるだけあって、その野性味のある甘みに一同が感嘆の声をあげる。  そして最後にネタのようなアイスクリーム、うにアイスと焼きそばアイスを食べてコースは終了となり、コーヒーを飲みながらの雑談タイムを経て、第一回の奇食イベントが終了となった。 「いや、助かったわよ。ホントに。感謝するわ」  全員が退出した後、キッチンスタジオに残って後片付けの手伝いをしている杉元へ、松樹はため息まじりにそう言いながら両手を合わせた。 「全五回の開催なんですよね? まあ、暴れたり騒いだりしない分、まだマシなのかも知れませんが」 「逆よ、逆。暴れたり騒いだりしてくれたほうが楽なの」松樹はシンクでゴミ袋に食べ残しや包みをまとめながら、首を横に振った。「そうすれば、大義名分をもって追い出せるでしょ? あの三人みたいに、そこらへんはわきまえつつ、他人を見下して隙あらばマウンティングしてやろうみたいなのが、一番迷惑なのよ。場の空気ぶち壊すし、私の評判も落とすし」  どうやら、過去にも経験があるらしい。ああいうのを、性質の悪い大人というのだろう。 「それに、あんな話始めるしさ。小日向さんもつまらなかっただろうし、何とかしなくちゃって思ってたら、あんたが流れを変えてくれたのよ。小日向さんにも話を振ってくれたし。感謝するわ」 「それぐらいはしますよ。正直なところ、僕としてもいたたまれませんでしたから」 「そうよね」そう言って、松樹はもう一度大きなため息をついた。「これからあと四回もあの連中の相手をしなくちゃと思うと、けっこうしんどいわよね」
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