一章 事件の始まりは薄紅色

2/14
前へ
/104ページ
次へ
時間の経過は、歴史のある。年季の入ったなどの良い表現もある。老舗の旅館や歴史的建造物などは、時間が経てばそれ相応の価値が出るもんだと思う。しかしこの近代的ビルディングにおいては、時間の経過はただの劣化でしかないだろう。 よく見ると所々小さいヒビが入り、耐震性に大きな不安のある古い雑居ビル。そこの今にも止まりそうな小さいエレベーターに乗り込み、4階のボタンを押す。ガタガタと大きな不安を煽る音とともに、辛うじて上昇していく。 スマホでネットを見ながら、ここへ来る前にコンビニで買ったカップのコーヒーを一口すする。三口目をすすったところで目的階に到着して、エレベータの扉が開く。 「おはようございます!」 「小平!おせーぞお前!」 ここは俺、小平祐樹(こだいらゆうき)の職場。【翼見新聞編集部】 歴史だけある弱小新聞の新聞記者も今年で2年目。そろそろ独り立ちしてスクープをものにしたいものである。 自分の席について、一息つく。しかしフッと見ると、奥の席で、偉そうに踏ん反り返っている厳ついおじさんが、俺を手招きして呼んでいる。(無視したい・・無視したい・・・見なかったことにならないだろうか!) 「小平!何やってる!早く来い!」 俺は渋々厳ついおじさんの所へと足を運ぶ。 「何でしょう三木編集長」 「今朝、百合川の蔵橋付近で溺死体が上がった」 「はぁ・・・」 「どうも仏さんは中学生らしい。記事になるかもしれないからお前ちょっと行ってこい」 「はぁ・・・え!俺一人でですか?」 「ただでさえ人手が足りんのだ。そろそろ独り立ちして記事にしてみろ」 「あっはい!不肖ながら小平祐樹!取材に行ってまいります!」 これはチャンスである。これをうまく記事に出来れば、一人前として認めてもらえるだろう。 自分に対する期待感、不安感が胸の奥から湧き出てきて、何とも高揚していくのがわかる。 俺は相棒のD500を首に掛け。取材カバンを手に持ち、早々に編集部を出て現場へと急いだ。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加