一章 事件の始まりは薄紅色

6/14
前へ
/104ページ
次へ
俺は彼女にそう言うと、階段を登り始める。何か言い返してくるかと思ったのだが、先ほどの勢いはどうしたのか、天使の彼女は静かに俺を見送る。 いきなり静かになったのが少し気になり、ちょっと振り向き彼女の様子を見ると、俺を見ているのではなく、河川敷の上を何やら見つめている。 彼女が見つめている先を見ると、そこには先ほど話をした、記者の中尾さんが、歩いてこちらに来ている所だった。 俺を見つけた中尾さんは、少し叫び気味に話しかけてきた。 「祐樹くん。警察発表が並木警察署で11時にあるらしい。この件を記事にするのなら行った方がいいよ」 少し距離があるので、俺も叫び気味に中尾さんに返事をする。 「中尾さん。ありがとうございます!行ってみます!」 中尾さんは手を少し上げて合図すると、そのまま歩いて去っていく。 中尾さんの去っていく姿を天使の彼女はじっと見つめている。 そのあまりに真剣な顔つきに、どうしたのか聞かないわけにはいけないような気がした。 「どうしたんだ?また色か何かが見えたのか?」 「漆黒の色・・・・」 「漆黒?それがあの人に見えたのかい?」 天使の彼女は無言で頷き、小さな声で嫌な事を呟く。 「漆黒の色は死の色・・・あの人もう少しで亡くなります」 さすがに不謹慎なその一言に、俺は苛立ちを隠さず。 「縁起でもない事言うじゃない!あんな元気そうなのに死んじゃうって言うのか?どうなって死ぬんだよ!」 「死の色は、事故や突発的な死に方では出ないの。おそらく病気だと思う・・」 その彼女の言葉がなぜか妙に説得力があり。信じる、信じないに関係なく、俺の心を不安にさせる。 その場に居たくなくなった俺は、勢いよく振り向くと、力強く階段を登り始めた。 「俺は並木警察署に行かないといけないから・・」 彼女にはそう言ってその場を後にする。 その場に残された天使は空を見上げる。雲ひとつ無い晴天の青空。その瞳の先にある見えない何かを探すように、何かの言葉を探すように、じっと見つめ続ける。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加