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俺は彼女にそう言うと、階段を登り始める。何か言い返してくるかと思ったのだが、先ほどの勢いはどうしたのか、天使の彼女は静かに俺を見送る。
いきなり静かになったのが少し気になり、ちょっと振り向き彼女の様子を見ると、俺を見ているのではなく、河川敷の上を何やら見つめている。
彼女が見つめている先を見ると、そこには先ほど話をした、記者の中尾さんが、歩いてこちらに来ている所だった。
俺を見つけた中尾さんは、少し叫び気味に話しかけてきた。
「祐樹くん。警察発表が並木警察署で11時にあるらしい。この件を記事にするのなら行った方がいいよ」
少し距離があるので、俺も叫び気味に中尾さんに返事をする。
「中尾さん。ありがとうございます!行ってみます!」
中尾さんは手を少し上げて合図すると、そのまま歩いて去っていく。
中尾さんの去っていく姿を天使の彼女はじっと見つめている。
そのあまりに真剣な顔つきに、どうしたのか聞かないわけにはいけないような気がした。
「どうしたんだ?また色か何かが見えたのか?」
「漆黒の色・・・・」
「漆黒?それがあの人に見えたのかい?」
天使の彼女は無言で頷き、小さな声で嫌な事を呟く。
「漆黒の色は死の色・・・あの人もう少しで亡くなります」
さすがに不謹慎なその一言に、俺は苛立ちを隠さず。
「縁起でもない事言うじゃない!あんな元気そうなのに死んじゃうって言うのか?どうなって死ぬんだよ!」
「死の色は、事故や突発的な死に方では出ないの。おそらく病気だと思う・・」
その彼女の言葉がなぜか妙に説得力があり。信じる、信じないに関係なく、俺の心を不安にさせる。
その場に居たくなくなった俺は、勢いよく振り向くと、力強く階段を登り始めた。
「俺は並木警察署に行かないといけないから・・」
彼女にはそう言ってその場を後にする。
その場に残された天使は空を見上げる。雲ひとつ無い晴天の青空。その瞳の先にある見えない何かを探すように、何かの言葉を探すように、じっと見つめ続ける。
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