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古代文明と機械を創造したヒトはいなくなり、この星はヒトがいなくなったことで進化した動植物と機械が、領地争いをする地へ変わって行った。
少女は、植物の女王になる株────言わば『姫』だった。少女の周り、カプセルを埋め尽くす花も、少女から生えているのだ。
何度目かの攻防戦で女王のプラントを訪れたとき、保護の名目で手に入れた一株だった。ここまで歩き、少女を見上げる『何か』が、己を不可視にしているものを取った。
「……」
現れたのは、白っぽい髪色の青年だった。先程零れ出たのは青年の髪だったのだろう。未だ不可視な体部分の、切れ目より腕を出し首元を触る。途端、不可視だった残りも露になった。
青年を不可視にしていたのは、黒く薄い、ローブだった。首の辺りにスイッチが在り、オフにしたのだ。誰にも見咎められないためだった。首都から離れた、管理ユニット以下は立ち入り禁止の区域で、秘匿であるため。と。
植物の女王たる姫株を取り戻したいと、動植物側がいつ襲って来るかもわからないからだ。青年は、襟首を忙しなくいじった。取ったローブのフードが、首の辺りに纏わり付くのが煩わしかったらしい。
緩めた首元から覗けたのは、顔と同系色の肌でなく、無骨な金属の部品で構成された首だ。
青年は機械側のものだった。機械側の、人間的な言い方をすれば“生物学者”みたいなポジションの。
青年は、姫株の少女の生体研究を担っていた。青年の双眸はカメラであり、捕捉する映像はデバイスを通せば外部記録も可能だった。勿論、都市に張り巡らされた回線を通じてオンライン上共有することも。少女を一頻り観察、スキャンすると胸の前で親指と人差し指を合わせて、ぴっと開き横スライドさせた。すると青年の瞳には空中に小さなモニターが出現した。モニターには少女の静止画像と数字が整列している。数字を見るに、順に並んでいるようだ。
「七日周期にしても三十日周期にしても、特に変化は見られないか……」
映っていたのは、青年が録っていた少女の記録だった。人差し指でスクロールしても、特に少女に異変は無く。ただ、異なる箇所が在るとすれば。
「……今日は、夢を見ていないのかな」
少女を埋める花だ。画像の少女はそれぞれ、花に違いが在った。
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