第四章・壊れた世界

5/21
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
「安藤さん、一緒に……ややっ、今日はお弁当ですか」 「うん」  財布を握りしめた田中が、私のお弁当を見下ろす。卵焼きや照り焼きチキンをメインのおかずに、副菜にはひじきの煮物。生野菜でレタスとトマト。ご飯の上にはごまが振りかけられ、目にも美味しそうなバランスの良い弁当だった。 「これ、安藤さんが作ったの? でへへ、すごいね」 「えー……あー……うん」  聞こえないようにぼそりと、違うけどと付け足す。天地がひっくり返らないかぎり、私にこんなにも美味しそうな料理は作れない。  じゃあ一人で買ってくるねと田中が言う。それから、今日は外で食べない? とも。  おいおい、こちらはもう、お弁当を広げているんですけど。  そんな文句を言おうとして思い出した。そうだ。田中は昨日、席の持ち主の男子に、酷いことを言われたのだっけ。  意識してみると、その男子がいるグループから、くすくすとこちらを見て笑う声に気づく。不愉快だったが、波風を立てることもないので、そちらは見ない。ただ、外に出るのは面倒だった。 「外はイヤ」 「あ……うん、そうだね。で、でへっ。またいつ雨が降るかわからないもんね」  朝から降っていた雨は、昼前に止み、今は晴天になっていた。だが、田中は自分を納得させるようにそんな言葉を言った。  それにしても、時たま田中が使う、とってつけたような妙な笑い声は何なのだろう。  田中が出ていき一人になった。 私は箸を持ち食事を始める。まずは、レタスとトマトから。生野菜から先に取ることは、なんやかんやよくわからないが健康に良いらしい。この弁当の製作者である島村からの言いつけなので、素直にしたがって食べてみる。  他にも何かこの順番が良いと言っていたような気もするが、よく覚えていないので残りは適当に食べることにした。好きなものを好きなときに口に放り込むのが、一番美味しいに決まっているのだ。  相変わらず島村の味付けは絶妙で、美味しかった。お弁当を半分ほど食べた頃、田中が戻ってきた。田中は私の様子を見て、一瞬立ち止まると、目を瞬きさせた。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!