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「ねぇ、ちょっと」 鼻水をすすりつつ歩いていると、後ろから声をかけられた。 ポケットに手を突っ込んだまま振り返る。そこにはいつからいたのか、どこから現れたのか、若い男が立っていた。 背格好はおれと似たような感じだけど、彼の方が背は高いかな。 「なに?」 「あの、落とし物をしちゃって……一緒に探してくれませんか?」 薄い上着の袖を指を隠すように握り込んで、上目使いにこっちを見る。 落とし物……って、今探すの? 寒いし、早く帰りたい。でも駅の場所もわからないし、車も通らない。 「いつ落としたの?」 「えっと……二年くらい前です」 「は?」 思わずすっとんきょうな声が出た。 この人、ある意味危ない人なんじゃ……と警戒心が芽生える。 見た目はおとなしそうで、眼鏡なんてかけたら教室の片隅で本でも読んでそうな真面目男子なんだけど。危害を加えてきそうな雰囲気はないものの、なんだろう……違和感。 さっきから寒いのとは別の意味で鳥肌が立っている。 「悪いけど……」 決めた。関わらない。 くるりと背を向けて足を踏み出したところを、後ろから羽交い締めにされた。
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