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猫を拾った。 肌寒い秋の始まりだった。 そいつは、ビー玉みたいなまん丸で大きな瞳を俺に向けて、小さく口を開き……そのまま声も出さずに、閉じた。 仕事の帰りに細い路地のはしっこで丸まっていたそいつを「見つけちまった以上、死なれても困る」と一言だけ言い訳を落として拾い、帰宅した。 なに、一人暮らしだし。動物は飼っちゃいけないマンションだけど。人命救助だ、仕方ない。 そう。この猫は、人間だ。 人間の男。 真っ黒な毛並みはよかったが、うっすらと湿り、体温が高い。 「顔も赤いな、熱あんのか?」 俺、風邪とかすぐにもらっちまうタイプなんだよな。マスクしとこう。 リビングのソファにそいつを横たえ、楽になるようにと衣服を緩めてやる。細いな、コイツ。 浮いてくる汗を拭き、冷したタオルを額に乗せてやる。 しばらくすると落ち着いたのか、静かな寝息になった。生命力はありそうだ。 寝室から毛布を持ってきて、かけてやる。朝になったら、名前くらいは聞けるかな。 リビングに「おやすみ」と言い残し、俺はシャワーを済ませ、一本だけビールを手に持ち寝室へ入った。
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