偽りと嘘と演技の愛し方

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こんなことは大したことじゃない。 男は苦しげに喉を鳴らしたけれど、そう思いながら構わず腰を揺らす。清潔感のある顔を切なげに歪め、健気に受け止めようとする姿は高揚感を煽る。それはわざとなのか男が醸し出す雰囲気なのか、緩急をつけ程よい早さで高めていく慣れたやり方とは対照的だ。 ぬるい口内で達する前にすぐに慣れた手つきでコンドームが装着され、バックで突き出された後孔に誘導される。すでに仕込まれたローションに気づき、ウリの所作手順など知らなくても流れ通りなのだとわかる。 だからと言って萎えることはなく張り詰める先端を秘所に宛てがう。 「あ、解さなくていいの?」 「お好みでどちらでもいいですよ。準備はしてきてますから」 返事はせずに張り出した先端を差し込むと、ささやかに呻き声が聞こえた。   * * * 好きだった。馬鹿みたいに好きだった。そしてその感情を死に物狂いで隠し通した。どんなことをしても近くにいたかったから、どんなことをしても感情も欲望も殺さなくてはいけなかった。殺すなんて意識もなかった。 痛みを身体中に溜め込んだまま、麻酔で散らして忘れる。どんどん積もっていくばかりの痛みに耐えかね、麻酔の量を増やす。仕事でも酒でも紛らわしてくれるならなんでもいい。いくら紛らわしても消えることのない現実は膿となって体の奥底に蓄積し、特有の匂いを伴い発酵する。そいういうものは蓄えるうちに時に甘く感じ、自家中毒になる。 時折見せる『お前は特別だ』という空気が全部をなしにして、痛みを消し去る。それだけでよかった。
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