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目が覚めたら隣にあどけない男の寝顔があって、びっくりした。
あぁ、こいつに抱かれたんだっけと、どうでもよく思い出した。やっぱり人生で起こる大抵のことは大したことないのかもしれない。
でもきっと、三森との出来事と同じレベルで忘れられないだろうなと思った。ただ数回体を重ねただけの男のことを。
そしてもう会わないのだろうと、無防備な寝顔を見つめながら思った。肩にうっすらと残る歯型をそっと指で辿る。
男の瞼が少しだけ上がって目が合った。
「あぁ、寝ちゃった。体、大丈夫ですか?初めてなのに、無理させちゃったかも」
「腰が重い……」
労わる風もなく男が小さく息を吐いて笑う。枕に頭を載せたまま、至近距離で顔を合わせるのはなんだか照れくさい。何度も合わせた唇にも、もう触れることはない。薄く目を開けた男が、こちらに手を伸ばしてきてどきりとする。
「後ろから突かれながら、あなたの顔見ながら抱いてみたいなって、思ってたんですよね。嫌いとか言いながら泣いて縋ってくるの、すごくよかったです」
前髪を指で柔らかく流しながら言われて、やっぱり本当に仕返しだったのかもしれないと思った。
「はぁ?それ以上言ったらベッドから蹴り落とす」
男は全く動じず、眠た気な動きでゆっくりと髪に触れていた。
「もう朝だよ。一泊の時間過ぎてんじゃないの?超過は払わないよ」
触れる手は案外気持ちいいと思っているのにわざと素っ気無く言ってやる。
「いいです。まだ、眠たいから……チェクアウトまで時間ありますよね」
それが客に対する態度か。そう思いながら髪を撫でてくる男の顔を微睡みの中で不思議な気持ちで見た。若くてそこそこ綺麗で裸ですぐそばにいるのに、近いようで遠い。
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